明治日本の産業革命遺産
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PEOPLE

2022.08.10
Vol.48

金属学の視点から紐解いて明らかになった産業史の真実~日本人の聡明さ、勤勉さ、不屈の精神を次世代へ伝えることが明治日本の産業革命遺産の使命~

稲角 忠弘

日本工学会フェロー

稲角 忠弘
プロフィール

1940年 兵庫県生まれ。東京大学 工学系大学院資源開発工学専攻修士課程修了

1966年 富士製鐵株式会社入社(75年新日鐵)、中央研究所、名古屋・大分両製鉄所製銑部、REで製銑関係の焼結など原料業務に従事

1995年 新日鐵退社。 海外製鉄原料委員会事務局長、鉄連標準化センター原料規格委員、環境資源工学会常務理事

2004年 稲角技術士事務所開設し、下記業務などで現在に至る

・東京大学総合研究博物館 研究・事業協力者

・鉄鋼協会「鉄と技術の歴史」及び「歴史を変える転換技術」 両研究フォーラム運営委員

・協材興業株式会社 特別顧問 

工学博士(75年授与)、技術士(金属部門)、APEC・PE(Chemical)/ 著書:「焼結鉱―資源少国日本の挑戦」叢書/鉄鋼技術の流れシリーズ、鉄鋼協会(2000)

科学技術的見地から産業の歴史を考察する

加藤 稲角先生には「明治日本の産業革命遺産」を世界遺産に登録するのにあたり、ご専門分野である鉄鋼に関する技術的なご助言をたくさん頂まして本当に感謝しております。

稲角 とんでもない。私はあまり深い事情を知らないまま、加藤さんの質問にお答えしていたわけですけれど、初めてお目にかかった当時は推薦書を作成するという段階だったですね。

加藤 内容が世界に通らなければいけないというミッションを果たすために必死でした。まさに藁にも縋る思いでお考えを伺っていたのです。

稲角 これはどなたもおっしゃることですが、私も加藤さんの「必ず世界遺産登録を成し遂げる!」という強い信念にググっと引きつけられるような感覚を覚えました。お話を伺っていて感じたのは物事の神髄を見極めたいという意欲と、本質を見抜こうとする洞察力のある質疑でした。たとえば「教科書には反射炉で鋼鉄が作られたとありますが、これは本当だと思いますか?」と。普通なら教科書に載っていたら鵜呑みにするところ、加藤さんは疑念を抱くわけで、これは尋常な追求ではないなと緊張し、しっかり勉強をしてお答えしなければと思いました。

加藤 明治日本の産業革命遺産の世界遺産登録においてはシリアルノミネーションということで、日本に点在する産業資産をストーリーでつなぐ必要がありました。文化省に「鉄は佐賀で反射炉によって作られた」と強固に説かれる方がいて、最初はその方向性で八幡まで産業革命遺産のストーリーをつなげていこうと試みたのです。ところが鉄づくりの技術的な試行錯誤の多くは成功しなかったという話が出て来たりして、辻褄があわないことに気づきました。教科書はあてにならない。きちんと整理しなければいけないと確信したものの、幕末の反射炉や高炉、それ以降のコークスの高炉についてなど、近代化に至るまでの鉄の歴史となると専門家でなければ分からないような難しいことがあり、どうしたものかと思っていた時に先生と出会ったのです。「現代の金属学にのっとって考察すれば、当時の鉄づくりをどう評価するのかということが見えてくる」と仰って頂き、なんて心強いのだろうと感動したのを覚えています。

稲角 私は特別なことをお話したわけではありません。鉄技術に携わる者なら誰でも同じことをお伝えしたでしょう。科学で導き出す答えは、いつの時も一つですから。

加藤 文化省には科学畑の人はいませんからねぇ。文科系の人ばかりなのです。

稲角 そもそも古文書には政治的な表現が含まれますから、どうしたって論脈合わせがでてくる。そこが文系と理系との結論の出し方の違いではないかという気がします。そういう違いがあることとその橋渡しの必要性、重要性を知る良い機会になり感謝しています。

加藤 それにしても文化省は柔軟性に欠けていました。古文書に書いてあることがすべてだという構えで。私が科学的な側面からも検証するべきなのではないかと提唱しても、まるで相手にされなかったのです。

産業革命につながる近代製鉄技術の出発点についての論争

稲角 鉄は製鉄法によって生成してくる鉄の性状が違ってくるという点が重要です。砂鉄が豊富に採れた日本では「たたら製法」が発展を遂げていました。「たたら製鉄」は、砂鉄と木炭を原料とし、粘土製の炉の中で還元させることによって鉄を作るという生産法で、たたらの鉄では鉄製大砲は作れなかったはず。たたらで作られる鉄というのは還元温度が低く、高炉で作る鉄とは違って鉄に含まれるカーボンやシリコンの濃度が低い。

つまり還元されて出来てくる成分が異なります。さらにチタンといった不純物が残り、これが弱点になって、たたらで作られた鉄は大砲づくりには向かなかった。大砲を作ろうとしても、鉄中のシリコンが低いとカーボンがグラファイトにならず、鉄とカーボンが結びついたセメンタイトとなり固くて脆く破裂してしまいますから。こうした理由から鉄中のカーボンが柔軟性のあるグラファイトになる鉄は、高炉から作る必要がありました。

たたら.png

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2015年6月28日から7月8日まで、ドイツ・ボンにて第 39 回世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が決定しました。

今回は、世界遺産登録決定祝賀会の様子をお伝えいたします。

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