明治日本の産業革命遺産
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PEOPLE

2019.12.02
Vol.36

釜石の奇跡と、震災を乗り越えて~世界遺産登録という大きなチャンス~

岩崎 昭子 氏

宝来館 女将

岩崎 昭子 氏
プロフィール

1989年(平成元年) 宝来館 女将就任

2008年(平成20年) グリーンツーリズム大賞2008 毎日新聞社主催 大賞受賞

20154月(平成27年)  宝来館リニューアルオープン

人は何度でも立ち上がる

 アジアで初めて開催されたラグビーワールドカップは日本代表チームの活躍により大いに沸きました。12の開催地のひとつに選ばれ士気が高まった釜石では「ラグビーに注目が集まるといいね」というのが合言葉のようになっていましたが、あれほどまでに盛り上がるとは誰も想像していなかったのではないでしょうか。

 2019年9月25日、津波で破壊された小学校と中学校の跡地に新設された「鵜住居復興スタジアム」でフィジーとウルグアイの試合が開催され、この狭い街に約16,000人もの方々が来てくださったのです。スタンドは人々の笑顔や歓声に溢れ、ものすごい熱気に包まれて……。震災直後は晴れやかな日が来るとは思えなかった。夢見る力さえ失っていたのです。でも人は何度でも立ち上がるのだと感動を覚えずにいられませんでした。

2015年に起きた釜石の二つの奇跡

 釜石の奇跡は2015年に始まっていたのです。3月にラグビーワールドカップの開催地に選定され、7月には明治日本の産業革命遺産が世界遺産に登録されました。鵜住居復興スタジアムの特設会場には「世界遺産に登録された橋野鉄鉱山」のコーナーが設けられましたが、私達にとってラグビーワールドカップの開催地に選ばれたことと、橋野鉄鉱山が明治日本の産業革命遺産の構成資産の1つに選ばれたことはセット。両者の共通項は「希望」です。その希望を運んできてくれたのは加藤康子さんでした。

 今になって私は思うんですよ。私達が空を見上げて「希望が欲しい」と願っていたのと時を同じくして、康子さんは上から日本を見渡しながら「日本の産業革命遺産にふさわしい場所はないかな」と探していらしたのだと。そして「あ、みーつけた!」という感じで橋野鉄鉱山に着目してくださった、というのはあくまでも私のイメージですけれど(笑)。

 私が初めて康子さんにお目にかかったのは構成資産の一連のシリアルノミネーションに釜石の橋野鉄鉱山が追加される3年ほど前、2007年のことでした。その時に康子さんは「橋野鉄鉱山には産業遺産としての価値があります。石組みに価値があるのではなく、橋野鉄鉱山を守ってきた人達に価値があるのですよ」といった趣旨のことをおっしゃいました。この言葉に自信を与えられ、私達は世界遺産登録を目指して立ち上がったのです。

 ところが2011年3月に東日本大震災に見舞われてしまいます。震災直後にラグビー関係者の皆さんが私達のもとへ訪ねて来て、少しでも元気づけたいと思ってくれたのでしょう。「ワールドカップ2019年があるからね」としきりに励ましてくれました。そんな中、私が「それなら釜石で開催してほしい」と言ったことから招致活動が始まったのです。もちろん多くの方々のご尽力のもとに夢が叶ったわけですが、康子さんと出会っていなければ私は打ちひしがれるばかりで、ラグビーワールドカップの開催地へという前向きな発想を抱くことはなかったと思います。

釜石の人は鉄と一体になって生きてきた

 「ラグビーといえば釜石」といわれますが、そもそもの始まりは「鉄」です。橋野鉄鉱山がなければ、新日本製鉄(現・新日鉄住金)は釜石には存在せず、新日鉄釜石ラグビー部の活躍もなかったのですから。

 現在、釜石の人口は約33,000人。鉄の基幹産業の企業さんが釜石に集中していた時代には10万人近くの人が暮らしていました。釜石に古くから住む人達は漁業や農業を営んでいましたが、その多くは鉄にかかわる仕事との兼業。あるいは家族の誰かは製鉄所さんの関連事業に携わっているなど、釜石の人は鉄と一体になって生きてきたのです。私達家族も例外ではなく、昭和38年に両親が始めた宝来館は製鉄所さんの保養所が老朽化していたため、主に保養所の役目を担っていました。唯一のリゾート地だった根浜海岸にはひっきりなしに大勢の人が訪れ、夏の夜はまるで不夜城のようで……。子供時代に見た華やかな光景が忘れられません。

釜石鵜住居復興スタジアム 1.5Mb.jpg

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