明治日本の産業革命遺産
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PEOPLE

2017.11.07
Vol.22

世界とつながる町~"長崎のたから"を"世界のたから"へ~

田上 富久 氏

長崎市長

田上 富久 氏
プロフィール

昭和31年12月10日生

昭和55年10月 長崎市役所 入所

平成14年 4月 長崎市観光部観光振興課主幹

平成16年 4月 長崎市企画部統計課長

平成19年 4月 長崎市長就任

平成23年 4月 長崎市長再任(2期目)

平成27年 4月 長崎市長再任(3期目)

   

現在就任している主な役職

 日本非核宣言自治体協議会会長(平成19年4月~)

 平和首長会議副会長(平成19年4月~)

 長崎県市長会会長(平成21年4月~)

 全国市長会相談役(平成24年6月~)

――最初に明治日本の産業革命遺産の構想をお聞きになった際、どのようにお感じになりましたでしょうか?

 正直なところ、世界遺産とはずいぶんと大きな話だなと思いました。

2003年の3月にNPOによる「軍艦島を世界遺産にする会」が発足するという前史があります。そこで当時、長崎市観光部観光課主幹だった私は、軍艦島という観光資源に着目する仲間の一人として、2003年8月に野母崎で開催された「軍艦島フォーラム2003夏」に参加し、加藤康子さんと出会ったのです。「幕末から明治にかけて、わずか50年でアジアの経済大国日本の礎を築いた産業遺産群を世界遺産にしたい」というお話を伺いながら、加藤さんの、確信して進むエネルギーの大きさに圧倒されたことを覚えています。もちろん素晴らしい構想だと心を揺さぶられました。とはいえ、その時点での私は「そんなことが本当に実現するのだろうか?」と半信半疑だったのです。

――長崎市としては、どのような形で世界遺産登録活動にかかわられてきたのでしょうか?

 軍艦島を含む長崎の産業遺産をグループ化して、他県に点在する産業遺産と共に世界遺産登録を目指すシリアルノミネーションという発想を訊いた時も驚きました。世界遺産の対象となるのは、たとえば「金閣寺」のようにシンボリックな単体要素だと思い込んでいたものですから。

しかし日本ではシリアルでの登録に馴染みがなかったため、苦戦を強いられました。それだけに2009年の1月に萩市、北九州市、大牟田市、長崎市、唐津市、荒尾市、宇城市、鹿児島市の6県8市で「九州・山口の近代化産業遺産群」(のちに釜石市と伊豆の国市が加わり『明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域』と改名)として世界遺産暫定一覧表に記載された折には感慨もひとしおでした。地方公共団体が抱えるさまざまな問題と対峙し、国と相談しながら一つひとつクリアしていった加藤さんの対応力、行動力、忍耐力の賜物です。

2007年4月に私は長崎市長に就任し、翌年「世界遺産推進室」を立ち上げました。キャッチフレーズは「“長崎のたから”を“世界のたから”へ」。長崎の町が個性的で面白いというだけではなく、その個性は世界とつながることによって育まれたものであるというところが重要なのです。世界遺産推進室ではホームページで世界遺産について紹介するなど、市民のみなさんと共に取り組む構えを備えていきました。

2009年10月には、専門家委員会により「第三船渠」「旧木型場」「ジャイアント・カンチレバークレーン」「占勝閣」「小菅修船場跡」「高島炭坑」「端島炭坑」「旧グラバー住宅」という長崎エリアの8つの構成遺産候補が発表され、世界遺産登録を実現するための道のりがいよいよ本格的に始まったのです。

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2015年6月28日から7月8日まで、ドイツ・ボンにて第 39 回世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が決定しました。

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<世界遺産登録の舞台裏>
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