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明治日本の産業革命遺産
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保全

第39回世界遺産委員会決議(39COM 8B.14)

世界遺産委員会は、

  1. 文書 WHC-15/39.COM/8B 及び WHC-15/39.COM/INF.8B1 を審査し、
  2. 「明治日本の産業革命遺産:製鉄・製鋼、造船、石炭産業」・日本を評価基準の(ⅱ)及び(ⅳ)に基づき世界遺産一覧表に記載し、
  3. 以下の顕著な普遍的価値の言明を採択する。

資産の概要

本産業遺産群は、主に日本の南西部に位置する九州・山口地域に分布し、産業化が初めて西洋から非西洋に波及し成就したことを顕している。19 世紀半ばから 20 世紀の初頭にかけ、日本は特に防衛面の要請に応えるため、製鉄・製鋼、造船、石炭産業を基盤に急速な産業化を成し遂げた。シリアルの構成資産は、1850 年代から 1910 年にかけてのわずか 50 年余りという短期間に達成された急速な産業化の 3 つの段階を顕している。
第一段階は 1850 年代から 1860 年代にかけて、明治に入る前、徳川将軍家の統治が終焉を迎える幕末、鎖国の中での製鉄及び造船の試行錯誤の挑戦に始まる。国の防衛力、特に、諸外国の脅威に対抗する海防力を高めるために、藩士たちの産業化への挑戦は、伝統的な手工業の技で、主に西洋の技術本からの二次的知識と洋式船の模倣より始まった。この挑戦はほぼ失敗に終わった。しかしながら、この取り組みにより、日本は江戸時代の鎖国から大きく一歩を踏みだし、明治維新へと向かう。
1860 年代からの第二段階においては、西洋の科学技術が導入され、技術の運用のために専門家が招かれ、専門知識の習得を行った。その動きは明治新政府の誕生により加速された。明治の後期(1890 年~1910 年)にあたる第三段階においては、国内に専門知識を有した人材が育ち、積極的に導入した西洋の科学技術を、国内需要や社会的伝統に適合するように現場で改善・改良を加え、日本の流儀で産業化を成就した。地元の技術者や管理者の監督する中で、国内需要に応じて地元の原材料を活用しつつ、西洋技術の導入が行われた。
23 の構成資産は 8 県 11 市に立地している。8 県の内 6 県は、日本の南西部に、1 県は本州の中部、1 県は本州の北部に位置する。遺産群は全体として、日本が西洋技術の導入において国内ニーズに応じて改良を加えた革新的アプローチにより、日本を幕藩体制の社会より主要な産業社会へと変貌させ、東アジアのさらに広い発展へ大きな影響をあたえた質的変化の道程を顕著に顕している。
1910 年以降、多くの構成資産は、本格的な複合的産業施設に発展をした。現在も、一部、現役の産業設備として操業しているものもあり、また、現役の産業設備の一部を構成しているものもある。

評価基準(ⅱ)

「明治日本の産業革命遺産」は、19 世紀の半ば、封建社会の日本が、欧米からの技術移転を模索し、西洋技術を移転する過程において、具体的な国内需要や社会的伝統に合わせて応用と実践を重ね、20 世紀初めには世界有数の産業国家に変貌を遂げた道程を顕している。本遺産群は、産業のアイデア、ノウハウ、設備機器のたぐい希な東西文化の交流が、極めて短期間のうちに、重工業分野において嘗てない自力の産業発展を遂げることで、東アジアに深大な影響を与えた。

評価基準(ⅳ)

「明治日本の産業革命遺産」は、製鉄・製鋼、造船、石炭産業など、基幹産業における技術の集合体として、非西洋諸国において初めて産業化に成功した、世界史上類例のない、日本の達成を証言している。西洋の産業の価値観へのアジアの文化的対応としても、産業遺産群の傑出した技術の集合体であり、西洋技術の国内における改善や応用を基礎として急速かつ独特の日本の産業化を顕している。

完全性

本遺産群には、顕著な普遍的価値に貢献する必要不可欠な要素が適切に含まれている。各構成資産における完全性は、構成資産によりばらつきがあるが、何れにおいても顕著な普遍的価値を証明するのに必要不可欠な要素は遺されている。膨大な量の考古学的証拠が確認されており、詳細な記録調査及び保全の監督が求められている。これらは、本推薦資産の完全性に大いに貢献をしている。いくつかの要素は、保全状態の面で脆弱又は大変脆弱である。端島炭坑は劣化が進み、大きな保全の課題を明示している。三池炭鉱・三池港では、物的素材の保全状態が悪い。現在は一時的な対策が講じられてはいるが、官営八幡製鐵所の修繕工場の素材の保全状況は悪い。いくつかの構成資産においては、開発の影響を受けやすく、特に視覚の完全性を担保する上で、開発行為に脆弱であることが懸念されている。松下村塾においては、隣地における史跡の公開体験の場としての二次的開発により、セッティングのビジュアルの完全性が大いに損なわれている。しかしながら、この開発は資産全体の完全性を損なうほどの悪影響ではない。高島炭坑のビジュアルの完全性は、小規模な商業開発により弱められている。旧集成館においては、旧鹿児島紡績所技師館が二度の移設を経て、現在は元の位置近くに移設されている。技師館の周辺には小規模の都市開発が行われ、セッティングが損なわれている。セッティングは、周囲の建物が取り壊され、さらなる開発が、法的手続きと、管理保全計画(CMP)の実施により、規制されることによって、改善することが可能である。

真実性

真実性において、個別の構成資産の中には断片的又は、考古学的遺構も含むが、何れにしてもそれらは、産業施設として真実性の高い証拠として認め得るものである。これらの構成資産については、一次情報としての真実性の高い史料であることが、詳細に記録され、文書化された考古学調査や報告書、さらには、公共機関並びに民間が保管する膨大な史料によって裏付けられている。全体としてみると、本遺産群は、19 世紀の半ば、封建社会であった日本が、欧米からの技術移転を模索したこと、また、西洋技術を移転する過程において、具体的な国内需要や社会的伝統に合わせて応用と実践を重ねた歩みを証言している。

保全管理に関する要求

本遺産群は、資産範囲及びまたその緩衝地域において、国、県、市において、既存の多様な法的保護施策により、適切な保護対策が実施され、より高い水準で価値が守られている。各構成資産の管理保全計画(CMP)のなかで、異なる法律の関係も示されている。これらの法律の中で最も重要な法律は、非稼働資産に適用される文化財保護法並びに、景観重要建造物として保護される民間企業所有の資産及び稼動資産の双方に適用される景観法である。これは長崎造船所において三菱重工業が所有し管理する4つの構成資産に適用され、また官営八幡製鐵所において新日鐵住金が所有し管理する2つの構成資産に適用されている。文化財保護法は、文化財指定された場所の開発及び現状変更を制限するための第一義的な手法であり、この法律の下に所有者は日本国政府から許可を得なければならない。同様に、景観法の下に、景観重要建造物を変更する場合には許可が求められ、そのような構造物の所有者はそれらを適切に管理保全しなければならない。緩衝地域内での開発及び行為は、主として都市景観条例により制限されており、開発計画について高さ・密度を制限されている。各構成資産の管理保全計画(CMP)の策定において、それぞれの構成資産が、資産全体の顕著な普遍的価値にどのように貢献しているのかを詳述するように草稿されてきた。CMPの基本方針では、包括的で一貫性のある保全のアプローチが示されているが、個々の構成資産における作業実施の詳細の水準は様々である。
日本政府は、稼働資産を含むシリアルの資産全体と個別の構成資産の保存管理のために、構成要素の管理を連携して行うパートナーシップを基本とした新たな枠組みを確立した。これは、「明治日本の産業革命遺産における管理保全の一般方針及び戦略的枠組み」として知られている。日本政府においては、この枠組みは内閣官房の所管であり、官房は管理体制の実施に最終責任を担っている。日本は、国・地方公共団体、民間企業を含む幅広い利害関係者が、推薦資産の管理と保護に参加をするため、この戦略的枠組みの下に、密接なパートナーシップを確立した。これらの仕組みに加え、民間事業者である三菱重工業(株)、新日鐵住金(株)、三池港物流(株)は、当該構成資産の保護、管理保全において内閣官房と合意をした。関係者はこの新しいパートナーシップ型の枠組みが、管理体制として有効であるようにモニタリングすること、また管理者が価値保全にむけての能力を培うためのキャパシティビルディングに向け、継続的計画を準備することなど、特に留意すべきである。また、民間企業が所有する構成資産においては、ヘリテージに関する適切な助言が提供される必要がある。最優先で求められることは、各構成資産並びに構成要素が全体の遺産群にどのように関係しているのか、特に日本の産業化の道程において、1又は2以上の段階を反映しているか等を示すための適切なインタープリテ―ション戦略を準備することであり、各構成資産がいかに顕著な普遍的価値に貢献しているのかを展示において明示することである。

  1. 締約国が、以下のことを検討するよう勧告する。
    • a)端島炭鉱の詳細な保全措置に係る計画を優先的に策定すること。
    • b)推薦資産(の全体)及び構成資産に関する優先順位を付した保全措置の計画及び実施計画を策定すること。
    • c)資産に対して危機をもたらす可能性の高い潜在的な負の影響を軽減するため、各構成資産における受け入れ可能な来訪者数を定めること。
    • d)推薦資産(の全体)及びその構成資産の管理保全のための新たな協力体制に基づく枠組みの有効性について、年次ごとにモニタリングを行うこと。
    • e)管理保全計画の実施状況及び地区別保全協議会での協議事項・決議事項の実施状況について、1年ごとのモニタリングを行うこと。
    • f)各構成資産の日々の管理に責任を持つあらゆるスタッフ及び関係者が、能力を培い推薦資産の日常の保全、管理、理解増進について一貫したアプローチを講じられるよう、人材育成計画を策定し、実施すること。
    • g)推薦資産のプレゼンテーションのためのインタープリテーション(展示)戦略を策定し、各構成資産がいかに顕著な普遍的価値に貢献し、産業化の1または 2以上の段階を反映しているかを特に強調すること。また、各サイトの歴史全体についても理解できるインタープリテーション(展示)戦略とすること。
    • h)集成館及び三重津海軍所跡における道路建設計画、三池港における新たな係留施設に関するあらゆる開発計画及び来訪者施設の増設・新設に関する提案について、『世界遺産条約履行のための作業指針』第 172 項に従って、審議のため世界遺産委員会に提出すること。
  2. 2018 年の第 42 回世界遺産委員会での審議のため、2017 年 12 月 1 日までに上記に関する進捗状況の報告を世界遺産センターに提出するよう、締約国に要請する。
  3. 同時に、締約国がイコモスに対して、上記勧告の実施に係る助言を求めることを検討するよう勧告する。

Source:UNESCO