金属学の視点から紐解いて明らかになった産業史の真実~日本人の聡明さ、勤勉さ、不屈の精神を次世代へ伝えることが明治日本の産業革命遺産の使命~
プロフィール
1940年 兵庫県生まれ。東京大学 工学系大学院資源開発工学専攻修士課程修了
1966年 富士製鐵株式会社入社(75年新日鐵)、中央研究所、名古屋・大分両製鉄所製銑部、REで製銑関係の焼結など原料業務に従事
1995年 新日鐵退社。 海外製鉄原料委員会事務局長、鉄連標準化センター原料規格委員、環境資源工学会常務理事
2004年 稲角技術士事務所開設し、下記業務などで現在に至る
・東京大学総合研究博物館 研究・事業協力者
・鉄鋼協会「鉄と技術の歴史」及び「歴史を変える転換技術」 両研究フォーラム運営委員
・協材興業株式会社 特別顧問
工学博士(75年授与)、技術士(金属部門)、APEC・PE(Chemical)/ 著書:「焼結鉱―資源少国日本の挑戦」叢書/鉄鋼技術の流れシリーズ、鉄鋼協会(2000)
科学技術的見地から産業の歴史を考察する
加藤 稲角先生には「明治日本の産業革命遺産」を世界遺産に登録するのにあたり、ご専門分野である鉄鋼に関する技術的なご助言をたくさん頂まして本当に感謝しております。
稲角 とんでもない。私はあまり深い事情を知らないまま、加藤さんの質問にお答えしていたわけですけれど、初めてお目にかかった当時は推薦書を作成するという段階だったですね。
加藤 内容が世界に通らなければいけないというミッションを果たすために必死でした。まさに藁にも縋る思いでお考えを伺っていたのです。
稲角 これはどなたもおっしゃることですが、私も加藤さんの「必ず世界遺産登録を成し遂げる!」という強い信念にググっと引きつけられるような感覚を覚えました。お話を伺っていて感じたのは物事の神髄を見極めたいという意欲と、本質を見抜こうとする洞察力のある質疑でした。たとえば「教科書には反射炉で鋼鉄が作られたとありますが、これは本当だと思いますか?」と。普通なら教科書に載っていたら鵜呑みにするところ、加藤さんは疑念を抱くわけで、これは尋常な追求ではないなと緊張し、しっかり勉強をしてお答えしなければと思いました。
加藤 明治日本の産業革命遺産の世界遺産登録においてはシリアルノミネーションということで、日本に点在する産業資産をストーリーでつなぐ必要がありました。文化省に「鉄は佐賀で反射炉によって作られた」と強固に説かれる方がいて、最初はその方向性で八幡まで産業革命遺産のストーリーをつなげていこうと試みたのです。ところが鉄づくりの技術的な試行錯誤の多くは成功しなかったという話が出て来たりして、辻褄があわないことに気づきました。教科書はあてにならない。きちんと整理しなければいけないと確信したものの、幕末の反射炉や高炉、それ以降のコークスの高炉についてなど、近代化に至るまでの鉄の歴史となると専門家でなければ分からないような難しいことがあり、どうしたものかと思っていた時に先生と出会ったのです。「現代の金属学にのっとって考察すれば、当時の鉄づくりをどう評価するのかということが見えてくる」と仰って頂き、なんて心強いのだろうと感動したのを覚えています。
稲角 私は特別なことをお話したわけではありません。鉄技術に携わる者なら誰でも同じことをお伝えしたでしょう。科学で導き出す答えは、いつの時も一つですから。
加藤 文科省(文部科学省)には科学畑の人はいませんからねぇ。文科系の人ばかりなのです。
稲角 そもそも古文書には政治的な表現が含まれますから、どうしたって論脈合わせがでてくる。そこが文系と理系との結論の出し方の違いではないかという気がします。そういう違いがあることとその橋渡しの必要性、重要性を知る良い機会になり感謝しています。
加藤 それにしても文科省は柔軟性に欠けていました。古文書に書いてあることがすべてだという構えで。私が科学的な側面からも検証するべきなのではないかと提唱しても、まるで相手にされなかったのです。
産業革命につながる近代製鉄技術の出発点についての論争
稲角 鉄は製鉄法によって生成してくる鉄の性状が違ってくるという点が重要です。砂鉄が豊富に採れた日本では「たたら製法」が発展を遂げていました。「たたら製鉄」は、砂鉄と木炭を原料とし、粘土製の炉の中で還元させることによって鉄を作るという生産法で、たたらの鉄では鉄製大砲は作れなかったはず。たたらで作られる鉄というのは還元温度が低く、高炉で作る鉄とは違って鉄に含まれるカーボンやシリコンの濃度が低い。
つまり還元されて出来てくる成分が異なります。さらにチタンといった不純物が残り、これが弱点になって、たたらで作られた鉄は大砲づくりには向かなかった。大砲を作ろうとしても、鉄中のシリコンが低いとカーボンがグラファイトにならず、鉄とカーボンが結びついたセメンタイトとなり固くて脆く破裂してしまいますから。こうした理由から鉄中のカーボンが柔軟性のあるグラファイトになる鉄は、高炉から作る必要がありました。
Vol.57
日本の未来のために今を生きる~明治日本の産業革命遺産の使命は「先人のスピリットを活かしていけば日本は救われる」という気づきと勇気を与えること
Vol.56
明治日本の産業遺産は日本の誇り~先人たちの歩みを知ることは日本の教育を見つめ直すことに通じる
フジサンケイグループ 代表
株式会社フジ・メディア・ホールディングス取締役相談役
株式会社フジテレビジョン 取締役相談役
Vol.55
世界遺産登録までの道のりは、山あり谷ありだった~人の縁という運に恵まれ、救われ、道を拓いて~
日本港湾空港建設協会連合会 顧問(元、一般財団法人 港湾空港総合技術センター理事長)
Vol.54
『侍が、カンパニーへ』という歴史的流れは日本の誇り~明治日本の産業遺産の中心的存在である長崎がリードして次世代へつなぐ
Vol.53
日本で初めて反射炉を作った佐賀藩、洋式海軍の拠点だった「三重津海軍所」~世界遺産登録に注いだ情熱を次世代に繋ぎたい。
前、佐野常民記念館(現、佐野常民と三重津海軍所跡の歴史館)館長
Vol.52
八幡製鉄所は、今も世界最先端のものづくりを作り続ける現役製鉄所
一般財団法人産業遺産国民会議 理事
特定非営利活動法人 里山を考える会 理事
Vol.51
吉田松陰や幕末の志士たちの熱き想い、急速な産業化を通して日本を支えた優れた功績 ~ 松陰神社には明治維新に至る歴史をきちんと伝えていく使命がある
Vol.50
稼働資産「三池港」を世界遺産にする秘策とは。
Vol. 49
明治日本の産業遺産に関する保全マニュアルの重要性とは?
Vol.48
金属学の視点から紐解いて明らかになった産業史の真実~日本人の聡明さ、勤勉さ、不屈の精神を次世代へ伝えることが明治日本の産業革命遺産の使命~
Vol.47
明治日本の産業革命遺産は偉大な教材、覗けば見えてくる様々な世界
元新日本製鐵株式会社社員、世界遺産登録推進室産業プロジェクトチームメンバー
Vol.46
鹿児島から始まった鉄の歴史が日本の近代化を飛躍的に前進させた~薩摩人のバイタリティを、未来に生きる若い世代に引き継いでいきたい~
Vol.45
吉田松陰が工業教育論を説き、命がけで英国へ渡った長州ファイブを輩出~誇らしき萩スピリットを後進へとつなげるために~
Vol.44
三角西港を作った先人の知恵、技術、行動力を子供たちの代へと継承していきたい~コロナ後も続く未来を見据えて今できることに全力で取り組む~
Vol.43
官営八幡製鐵所は「1枚の古写真」から世界遺産になった!~元日鉄マンが明かす、"登録前夜"のとっておきのエピソード~
Vol.42
外に向かって発信する「新しい地元学」を確立したい ~「釜石の誇り」から「日本・世界の中の釜石の誇り」へ!~
Vol.41
観光ガイド歴18年、あふれ出る"三角西港愛"~世界遺産登録はゴールではなく、新たな出発点~
Vol.40
韮山反射炉とともに「刻」をきざむ~物産館&レストラン事業で"反射炉観光"の魅力度アップ~
株式会社蔵屋鳴沢 代表取締役社長
一般社団法人伊豆の国市観光協会会長
Vol.39
運命に導かれて軍艦島デジタルミュージアムを設立~明治日本の産業革命遺産の価値を広く深く伝えるために、自分にできることを始めて、続けて、やり切りたい~
軍艦島コンシェルジュ取締役統括マネージャー
軍艦島デジタルミュージアムプロデユーサー
Vol.38
産業遺産の主役は「人」~世界遺産登録を経て再認識した故郷の素晴らしさ~
Vol.37
すべては長崎の経済発展のために~海運業の枠を超え、長崎の文化や産業遺産の歴史を伝承~
Vol.36
釜石の奇跡と、震災を乗り越えて~世界遺産登録という大きなチャンス~
Vol.35
韮山反射炉とともに後世に伝えたい「850年の歴史資料」 ~待望の新・収蔵庫が完成、保存・修復・活用に弾み
Vol.34
不屈の開拓精神と先人のパワーで時代を切り拓いた歴史~後世へ受け継がれる希望と大きな力~
Vol.33
軍艦島は「地球と人類の未来への警告のメッセージ」~元島民ガイドが訴える想いと願い~
Vol.32
「シンクロニシティー」が生んだ世界遺産登録という奇跡~想いの強さが志ある人々の共感を呼び起こした!~
エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社 代表取締役
Vol.31
日本の人達にパワーを~明治日本の産業革命遺産の使命~
渡辺プロダクショングループ代表・株式会社渡辺プロダクション名誉会長
Vol.30
産業遺産の歩みを"100年後を生きる人々"への希望に
Vol.29
"21世紀の薩摩ステューデント"よ、未来を創れ!~旧集成館は鹿児島観光の情報発信拠点~
Vol.28
各地域に着実に広がる「つながりあるストーリー」という意識~保全管理・インタープリテーションのあり方には課題も~
サラ・ジェーン・ブラジル(Sarah Jane Brazil)氏
Vol.27
《為せば成る為さねば成らぬ何事も》~人とつながるための勇気や行動力を~
特定非営利活動法人 九州・アジア経営塾 理事長兼塾長
株式会社SUMIDA 代表取締役
Vol.26
「日本人として、世界に対して誇りを持って発信できる世界遺産」〜内閣官房・有識者会議の流れを決したジャーナリストの視点〜
Vol.25
クラシックカーが「明治日本の産業革命遺産」を走る!~2019年、九州で「ラリーニッポン」を開催~
Vol.24
着々と進む"世界遺産周遊ルート"の整備・振興 ~推進協議会、多彩なプロモーションで世界に向けて魅力発信!~
明治日本の産業革命遺産世界遺産ルート推進協議会会長
一般財団法人産業遺産国民会議理事
(九州旅客鉄道株式会社 相談役)
Vol.23
「遺産観光」の振興に向けたルート整備にいっそうの力を~忘れ難い故郷・呉への空襲と広島原爆の記憶~
一般財団法人産業遺産国民会議 代表理事
(公益財団法人資本市場振興財団 顧問)
Vol.22
世界とつながる町~"長崎のたから"を"世界のたから"へ~
Vol.21
「ICOMOS-TICCIH共同原則」の真価問われる"世界の実験場"~日本政府が推進する新たな保全へのチャレンジ~
Vol.20
忘れ難いS・スミス氏との激論の日々 ~異文化の中で出会った"なじみ深い19世紀の産業遺産"~
Vol.19
歴史や文化を継承することは、次世代の技術革新を生み出す~"使いながら残す"に道を開いた「明治日本の産業革命遺産」~
Vol.18
シリアル登録方式の保全管理に新たな道を拓いた「明治日本の産業革命遺産」-- 今後の大きな課題は「記憶と理解を引き継ぐ人材研修」
ヘリテージ保全並びに世界遺産の専門家としてグローバルに活躍する国際コンサルタント
ダンカン・マーシャル(Duncan Marshall)氏
Vol.17
ジャイアント・カンチレバークレーンと小菅修船場跡の3Dデジタル・ドキュメンテーション
The Glasgow School of Art’s School of Simulation and Visualization、データ・アクイジション責任者
Vol.15
「スコティッシュ・テン プロジェクト」によるデジタル文書化
ヒストリック・スコットランド
スコティッシュ・テン プロジェクト・マネージャー
Vol.14
富士山と韮山反射炉、2つの世界遺産を一望できる茶畑の丘 --次の夢は「子どものためのミニ反射炉」で体験学習
Vol.13
登録までの道のりと資産の今後を見つめて
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート副学長・評議会議長
イングランド・ウェールズにおけるカナル&リバートラスト遺産顧問
Vol.12
正確な情報発信の中で、歴史を見つめるきっかけに
Vol.11
「ものづくりの街・北九州」への愛着と誇り--"シビック・プライド"を呼び起こしてくれた世界文化遺産登録
Vol.10
世界遺産登録決定祝賀会レポート(@ドイツ・ボン)
2015年6月28日から7月8日まで、ドイツ・ボンにて第 39 回世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が決定しました。
今回は、世界遺産登録決定祝賀会の様子をお伝えいたします。
Vol.9
使いながら保存する-「稼働遺産」の保存・活用に新たな道を拓く
阪神高速道路株式会社 取締役兼常務執行役員
(一般財団法人産業遺産国民会議 理事)
Vol.8
港湾法の体系で、世界遺産の保全を担保する
Vol.7
近代化を切り拓いた長州ファイブと試行錯誤の痕跡を残す萩の資産
Vol.6
日本の「ものづくり」「産業」の原点を伝える「明治日本の産業革命遺産」
Vol.5
日本の近代工業化を石炭産業によって支えた三池エリア
Vol.4
国家、社会のため、広い視野と使命感を持って試行錯誤しつつ挑戦し続けた「明治の産業革命」の意義
文部科学省 生涯学習政策局 生涯学習総括官
前 内閣官房 内閣参事官
Vol.3
「鉄は釜石から八幡へ」 近代製鉄発祥の地から誇り高き文化を伝える
Vol.2
強く豊かな国家を目指して 薩摩藩主島津斉彬が築いた『集成館』
一般財団法人産業遺産国民会議 理事
島津興業 相談役
Vol.1
産業国家日本の原点 『明治日本の産業革命遺産』を次世代へ
「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産登録推進協議会 会長/鹿児島県知事