世界とつながる町~"長崎のたから"を"世界のたから"へ~
――端島炭坑(通称・軍艦島)の保全に関して伺います。イコモス(ユネスコの諮問機関)から登録に向けた勧告の際に「緊急の保全措置が必要」との指摘がありました。具体的にどのような措置を取ったのか、これからどういう保全活動が必要だと考えておられるのかについてお聞かせください。
世界遺産に登録され、軍艦島は一年に30万人近くの方が観光にみえるようになりました。軍艦島は1974年に閉山され、島民が島を離れて以来、40年ものあいだ手付かずの無人島と化していたわけですから、埋もれていた宝を発掘したような感覚です。こうしたことはどこの地域にもあり得ることで、軍艦島は日常の中に埋没している宝があることを証明する大きな役割を果たしたのではないでしょうか。しかし別の見方をすれば、長崎市は廃墟だった場所を保存するという極めて困難な試みに挑むことになったわけです。
そもそも世界遺産に手を挙げるということは、未来に資産を遺していくと宣言することを意味します。どんなに困難であろうと軍艦島の保全を達成することは長崎市の使命であるととらえ、現在、さまざまな専門家の力を借りて保全計画を作っているところです。
簡単にご説明すれば、世界遺産価値に貢献している「護岸」、「生産施設」と直接的に世界遺産価値を示すものではないですが島のシルエットに貢献している「居住施設」を保存していく計画です。
2018年から本格的な整備に入り30年かけて保全していく予定で、保全費用は108億円と試算しています。国や県からの補助金もありますが、長崎の世界遺産は長崎市の財産ですので市が積極的に責任を果たすべきところだと認識し、端島(軍艦島)整備基金を設置しました。ふるさと納税をはじめ、個人や企業のみなさまから資金を募っています。是非ともご協力いただきたく、募金活動の輪を広げていくことに力を注いでいく所存です。
――2017年7月に韓国で上映された映画「軍艦島」について伺います。舞台は太平洋戦争中の端島。朝鮮半島から端島炭坑へ強制徴用された韓国人労働者が反乱を起こすというストーリーであり、軍艦島は差別や虐待を受けた「地獄島」として描かれているのですが。
日本では未公開ですので、まだ映画そのものは鑑賞していません。しかし予告編を観たり、映画を観たという方からお話を伺ったりして、ストーリーは把握しています。フィクションであるとはいえ、端島に暮らしていた人からは「差別はなかった。共に働き、共に遊んでいた」といった話を聞いています。事実は事実としてしっかりと伝えていかなければいけない。早急に端島の歴史や実際の生活を正しく理解してもらうための活動を展開する必要があると考え、ホームページを通じて日本語、英語、韓国語、中国語の4か国語での情報発信を決めました。
海外の人達に産業遺産における歴史の真実を伝えることの必要性も然ることながら、日本の人達、特に未来を担う若者や子供達が歴史的な背景をきちんと把握し、誇りを持って産業遺産を語ることができるよう、環境を整えていくことが大切だと考えています。すでに世界遺産推進室のスタッフが学校でレクチャ―を行う、見学を実施するなど、授業の一環として産業革命遺産について深く学ぶ機会を提供しています。今後ますます力を注いでいく方針です。
――最後に8つの産業遺産を持つ長崎市の展望についてお聞かせください。
世界遺産登録はゴールではなく、ここから新たな町づくりが始まるのです。ブームに終わせては元も子もありません。長崎の町は世界とつながる中で発展してきました。
長崎という町の果たしてきた歴史的役割をしっかりと感じながら、多くの人に世界遺産価値を伝えていく努力を市民の皆様とともに果たしていきます。
(インタビュー&執筆:丸山あかね)
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イングランド・ウェールズにおけるカナル&リバートラスト遺産顧問
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Vol.10
世界遺産登録決定祝賀会レポート(@ドイツ・ボン)
2015年6月28日から7月8日まで、ドイツ・ボンにて第 39 回世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が決定しました。
今回は、世界遺産登録決定祝賀会の様子をお伝えいたします。
Vol.9
使いながら保存する-「稼働遺産」の保存・活用に新たな道を拓く
阪神高速道路株式会社 取締役兼常務執行役員
(一般財団法人産業遺産国民会議 理事)
Vol.8
港湾法の体系で、世界遺産の保全を担保する
Vol.7
近代化を切り拓いた長州ファイブと試行錯誤の痕跡を残す萩の資産
Vol.6
日本の「ものづくり」「産業」の原点を伝える「明治日本の産業革命遺産」
Vol.5
日本の近代工業化を石炭産業によって支えた三池エリア
Vol.4
国家、社会のため、広い視野と使命感を持って試行錯誤しつつ挑戦し続けた「明治の産業革命」の意義
文部科学省 生涯学習政策局 生涯学習総括官
前 内閣官房 内閣参事官
Vol.3
「鉄は釜石から八幡へ」 近代製鉄発祥の地から誇り高き文化を伝える
Vol.2
強く豊かな国家を目指して 薩摩藩主島津斉彬が築いた『集成館』
一般財団法人産業遺産国民会議 理事
島津興業 相談役
Vol.1
産業国家日本の原点 『明治日本の産業革命遺産』を次世代へ
「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産登録推進協議会 会長/鹿児島県知事