明治日本の産業革命遺産
JAPANESE  ENGLISH

PEOPLE

2017.08.10
Vol.21
「ICOMOS-TICCIH共同原則」の真価問われる"世界の実験場"~日本政府が推進する新たな保全へのチャレンジ~

ヘリテージ・モントリオール政策部長

ディヌ・ブンバル(Dinu Bumbaru )氏
ディヌ・ブンバル(Dinu Bumbaru )氏

■端島に「ダブリン原則」をどう生かすか--国際会議の開催を!

--「明治日本の産業革命遺産」は新しい「イコモス-ティキ共同原則」を採り入れた最初の世界遺産だと聞いています。

 本遺産をユネスコに推薦するに当たり、日本政府はこの共同原則の考え方を保存、教育、展示、運営に関する最も先進的で総合的な枠組みであると捉え、共同原則に則って保存策を提示しました。それは正しい選択であり、結果的に世界遺産への登録実現にとても有効、有益だったと認識しています。

 私たちが共同原則の検討を始めた2003年当時はまだイコモスでも、ティキでも歴史遺産の保存については伝統的な考え方が支配的でしたが、本遺産のように稼働資産を含む産業遺産の場合は、より先進的な取り組みが必要になります。日本政府や関連サイトの関係者はそのことをよく理解し、「ダブリン原則」が示した新しい考え方を全面的に採り入れたということになると思います。

--世界遺産登録から2年経ち、各構成資産の現状について、ブンバルさんはどのようにご覧になっているでしょうか?

 「明治日本の産業革命遺産」だけでなく、同じ明治期の日本の成功を物語る富岡製糸場についても言えることですが、ユネスコ世界遺産委員会が登録に当たって出した8つの勧告に対する取り組みがどのように進展しているか。この点が最も注目されるポイントだと考えます。

 例えば、取り付け道路がどう建設されているか、あるいは稼働遺産の生産設備としての機能維持と世界遺産価値の保全をどのようにバランスさせて展示・紹介していくか。こうした課題は、日本が「ダブリン原則」に則って課題解決していく最初のケースとして、世界遺産の保存における“世界のラボラトリー”になっていると言っても過言ではありません。“世界の実験場”が欧米ではなく、アジアにできたということを、私は大変ハッピーに思っています。

--その8つの勧告に関して、日本の取り組みの現状をどのように評価されていますか?

 私はまだすべての構成資産を見ているわけではありませんが、関係者のまとめたレポートを読む限り、保存計画も、インタープリテーション戦略も順調に進展していると感じています。日本政府でも、関連自治体でも最高のエキスパートたちが取り組んでおり、その点に関しては全幅の信頼を置くことができると思います。

 
 もちろん、端島(軍艦島)のように、多くの課題を抱える構成資産もあります。端島は寺院やギリシャの歴史遺産などとは異なり、生産設備、機械、さらには居住地区、学校、コミュニティースペースなどそこで暮らした労働者たちの遺産が含まれており、ユネスコ世界委員会は大変センシティブになっており、今後の保全のあり方に大きな関心を持っています。端島の保存は大きなチャレンジであり、その意味で「ダブリン原則」がどのように生かされるか、その真価が問われるケースになると言えましょう。

--「明治日本の産業革命遺産」はまさに「ダブリン原則」のテストケースであるということですね。

 確かにイコモスにとっても、ティキにとっても、本遺産は「ダブリン原則」のテストケースであると言うことはできるでしょう。ですが、より重要なのは、あくまでも日本のイニシアティブで本遺産の保存・インタープリテーションが進んでいることです。本遺産は日本イコモスの西村幸夫先生とニール・コソン卿が主導した有識者会議でまとめられ、取り組んでいるプロジェクトなのです。主体は日本なのです。

 
 今後の展開について専門家として1つ提案をすれば、例えば、端島で保存策を考える国際会議を開催してはいかがでしょうか。この「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を成功裏に実現したパートナーシップをどのようにしてさらに発展させるか。あるいは、「ダブリン原則」を今後の保存にどのように適用していくことが望ましいか。たくさんの課題を抱える端島に世界の専門家が集まり、率直に意見をぶつけ合う。そんなパネルが実現すれば、大変意義のあるイベントになると思います。

ーー本日は多忙な中をお時間をつくっていただき、有難うございました。


(インタビュー&執筆:高嶋健夫、通訳:戸谷美苗、写真:NCIH撮影)

Backnumber>一覧へ
Vol.44
三角西港を作った先人の知恵、技術、行動力を子供たちの代へと継承していきたい~コロナ後も続く未来を見据えて今できることに全力で取り組む~

熊本県宇城市長

守田 憲史 氏
Vol.43
官営八幡製鐵所は「1枚の古写真」から世界遺産になった!~元日鉄マンが明かす、"登録前夜"のとっておきのエピソード~

元新日本製鐵株式会社社員

水口 政義 氏(みなくちまさよし)
Vol.42
外に向かって発信する「新しい地元学」を確立したい ~「釜石の誇り」から「日本・世界の中の釜石の誇り」へ!~

岩手大学理工学部 准教授

小野寺 英輝 氏
Vol.41
観光ガイド歴18年、あふれ出る"三角西港愛"~世界遺産登録はゴールではなく、新たな出発点~

三角西港観光ガイドの会 会長

齊藤 万芳 氏(さいとうまんぽう)
Vol.40
韮山反射炉とともに「刻」をきざむ~物産館&レストラン事業で"反射炉観光"の魅力度アップ~

株式会社蔵屋鳴沢 代表取締役社長

一般社団法人伊豆の国市観光協会会長

稲村 浩宣 氏
Vol.39
運命に導かれて軍艦島デジタルミュージアムを設立~明治日本の産業革命遺産の価値を広く深く伝えるために、自分にできることを始めて、続けて、やり切りたい~

軍艦島コンシェルジュ取締役統括マネージャー

軍艦島デジタルミュージアムプロデユーサー

久遠 裕子 氏
Vol.38
産業遺産の主役は「人」~世界遺産登録を経て再認識した故郷の素晴らしさ~

峠の茶屋 オーナー

小笠原 静子 氏
Vol.37
すべては長崎の経済発展のために~海運業の枠を超え、長崎の文化や産業遺産の歴史を伝承~

やまさ海運株式会社会長

やまさ海運株式会社社長

伊達 秀則 氏 伊達 昌宏 氏
Vol.36
釜石の奇跡と、震災を乗り越えて~世界遺産登録という大きなチャンス~

宝来館 女将

岩崎 昭子 氏
Vol.35
韮山反射炉とともに後世に伝えたい「850年の歴史資料」 ~待望の新・収蔵庫が完成、保存・修復・活用に弾み

公益財団法人江川文庫 代表理事

江川家42代当主

江川 洋 氏
Vol.34
不屈の開拓精神と先人のパワーで時代を切り拓いた歴史~後世へ受け継がれる希望と大きな力~

国民民主党長崎県連代表

高木 義明  氏
Vol.33
軍艦島は「地球と人類の未来への警告のメッセージ」~元島民ガイドが訴える想いと願い~

NPO法人軍艦島を世界遺産にする会 理事長

坂本 道徳 氏
Vol.32
「シンクロニシティー」が生んだ世界遺産登録という奇跡~想いの強さが志ある人々の共感を呼び起こした!~

エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社 代表取締役

大上 二三雄 氏
Vol.31
日本の人達にパワーを~明治日本の産業革命遺産の使命~

渡辺プロダクショングループ代表・株式会社渡辺プロダクション名誉会長

渡邊 美佐 氏
Vol.30
産業遺産の歩みを"100年後を生きる人々"への希望に

参議院議員

平野 達男 氏
Vol.29
"21世紀の薩摩ステューデント"よ、未来を創れ!~旧集成館は鹿児島観光の情報発信拠点~

鹿児島県知事

三反園 訓 氏
Vol.28
各地域に着実に広がる「つながりあるストーリー」という意識~保全管理・インタープリテーションのあり方には課題も~

世界遺産コンサルタント

サラ・ジェーン・ブラジル(Sarah Jane Brazil)氏
Vol.27
《為せば成る為さねば成らぬ何事も》~人とつながるための勇気や行動力を~

特定非営利活動法人 九州・アジア経営塾 理事長兼塾長

株式会社SUMIDA 代表取締役

橋田 紘一 氏
Vol.26
「日本人として、世界に対して誇りを持って発信できる世界遺産」〜内閣官房・有識者会議の流れを決したジャーナリストの視点〜

ジャーナリスト、「下村満子の生き方塾」塾長

下村 満子 氏
Vol.25
クラシックカーが「明治日本の産業革命遺産」を走る!~2019年、九州で「ラリーニッポン」を開催~

一般財団法人ラリーニッポン 代表理事

小林 雄介 氏
Vol.24
着々と進む"世界遺産周遊ルート"の整備・振興 ~推進協議会、多彩なプロモーションで世界に向けて魅力発信!~

明治日本の産業革命遺産世界遺産ルート推進協議会会長

一般財団法人産業遺産国民会議理事

(九州旅客鉄道株式会社 相談役)

石原 進 氏
Vol.23
「遺産観光」の振興に向けたルート整備にいっそうの力を~忘れ難い故郷・呉への空襲と広島原爆の記憶~

一般財団法人産業遺産国民会議 代表理事

(公益財団法人資本市場振興財団 顧問)

保田 博 氏
Vol.22
世界とつながる町~"長崎のたから"を"世界のたから"へ~

長崎市長

田上 富久 氏
Vol.21
「ICOMOS-TICCIH共同原則」の真価問われる"世界の実験場"~日本政府が推進する新たな保全へのチャレンジ~

ヘリテージ・モントリオール政策部長

ディヌ・ブンバル(Dinu Bumbaru )氏
Vol.20
忘れ難いS・スミス氏との激論の日々 ~異文化の中で出会った"なじみ深い19世紀の産業遺産"~

世界遺産コンサルタント

バリー・ギャンブル(Barry Gamble)氏
Vol.19
歴史や文化を継承することは、次世代の技術革新を生み出す~"使いながら残す"に道を開いた「明治日本の産業革命遺産」~

工学院大学常務理事

後藤 治 氏
Vol.18
シリアル登録方式の保全管理に新たな道を拓いた「明治日本の産業革命遺産」-- 今後の大きな課題は「記憶と理解を引き継ぐ人材研修」

ヘリテージ保全並びに世界遺産の専門家としてグローバルに活躍する国際コンサルタント

ダンカン・マーシャル(Duncan Marshall)氏
Vol.17
ジャイアント・カンチレバークレーンと小菅修船場跡の3Dデジタル・ドキュメンテーション

The Glasgow School of Art’s School of Simulation and Visualization、データ・アクイジション責任者

アラステア・ローリンストン 氏
Vol.16
日本で注目される「産業遺産」

ヒストリック・スコットランド産業遺産政策責任者

マイルズ・オグリソープ博士
Vol.15
「スコティッシュ・テン プロジェクト」によるデジタル文書化

ヒストリック・スコットランド

スコティッシュ・テン プロジェクト・マネージャー

リン・ウィルソン博士
Vol.14
富士山と韮山反射炉、2つの世界遺産を一望できる茶畑の丘 --次の夢は「子どものためのミニ反射炉」で体験学習

静岡県伊豆の国市長

小野 登志子 氏
Vol.13
登録までの道のりと資産の今後を見つめて

ロイヤル・カレッジ・オブ・アート副学長・評議会議長

イングランド・ウェールズにおけるカナル&リバートラスト遺産顧問

ニール・コソン卿
Vol.12
正確な情報発信の中で、歴史を見つめるきっかけに

東京立正短期大学 学長

慶應義塾大学 名誉教授

工藤 教和 氏
Vol.11
「ものづくりの街・北九州」への愛着と誇り--"シビック・プライド"を呼び起こしてくれた世界文化遺産登録

北九州市長

北橋 健治 氏
Vol.10
世界遺産登録決定祝賀会レポート(@ドイツ・ボン)

2015年6月28日から7月8日まで、ドイツ・ボンにて第 39 回世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が決定しました。

今回は、世界遺産登録決定祝賀会の様子をお伝えいたします。

<世界遺産登録の舞台裏>
Vol.9
使いながら保存する-「稼働遺産」の保存・活用に新たな道を拓く

阪神高速道路株式会社 取締役兼常務執行役員

(一般財団法人産業遺産国民会議 理事)

岡本 博 氏
Vol.8
港湾法の体系で、世界遺産の保全を担保する

静岡県副知事

難波 喬司 氏
Vol.7
近代化を切り拓いた長州ファイブと試行錯誤の痕跡を残す萩の資産

萩市長

野村 興兒 氏
Vol.6
日本の「ものづくり」「産業」の原点を伝える「明治日本の産業革命遺産」

東京地下鉄株式会社 代表取締役会長

安富 正文 氏
Vol.5
日本の近代工業化を石炭産業によって支えた三池エリア

大牟田市長

古賀 道雄 氏
Vol.4
国家、社会のため、広い視野と使命感を持って試行錯誤しつつ挑戦し続けた「明治の産業革命」の意義

文部科学省 生涯学習政策局 生涯学習総括官
前 内閣官房 内閣参事官

岩本 健吾 氏
Vol.3
「鉄は釜石から八幡へ」 近代製鉄発祥の地から誇り高き文化を伝える

釜石市長

野田 武則 氏
Vol.2
強く豊かな国家を目指して 薩摩藩主島津斉彬が築いた『集成館』

一般財団法人産業遺産国民会議 理事

島津興業 相談役

島津 公保 氏
Vol.1
産業国家日本の原点 『明治日本の産業革命遺産』を次世代へ

「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産登録推進協議会 会長/鹿児島県知事

伊藤 祐一郎 氏