「ICOMOS-TICCIH共同原則」の真価問われる"世界の実験場"~日本政府が推進する新たな保全へのチャレンジ~
■端島に「ダブリン原則」をどう生かすか--国際会議の開催を!
--「明治日本の産業革命遺産」は新しい「イコモス-ティキ共同原則」を採り入れた最初の世界遺産だと聞いています。
本遺産をユネスコに推薦するに当たり、日本政府はこの共同原則の考え方を保存、教育、展示、運営に関する最も先進的で総合的な枠組みであると捉え、共同原則に則って保存策を提示しました。それは正しい選択であり、結果的に世界遺産への登録実現にとても有効、有益だったと認識しています。
私たちが共同原則の検討を始めた2003年当時はまだイコモスでも、ティキでも歴史遺産の保存については伝統的な考え方が支配的でしたが、本遺産のように稼働資産を含む産業遺産の場合は、より先進的な取り組みが必要になります。日本政府や関連サイトの関係者はそのことをよく理解し、「ダブリン原則」が示した新しい考え方を全面的に採り入れたということになると思います。
--世界遺産登録から2年経ち、各構成資産の現状について、ブンバルさんはどのようにご覧になっているでしょうか?
「明治日本の産業革命遺産」だけでなく、同じ明治期の日本の成功を物語る富岡製糸場についても言えることですが、ユネスコ世界遺産委員会が登録に当たって出した8つの勧告に対する取り組みがどのように進展しているか。この点が最も注目されるポイントだと考えます。
例えば、取り付け道路がどう建設されているか、あるいは稼働遺産の生産設備としての機能維持と世界遺産価値の保全をどのようにバランスさせて展示・紹介していくか。こうした課題は、日本が「ダブリン原則」に則って課題解決していく最初のケースとして、世界遺産の保存における“世界のラボラトリー”になっていると言っても過言ではありません。“世界の実験場”が欧米ではなく、アジアにできたということを、私は大変ハッピーに思っています。
--その8つの勧告に関して、日本の取り組みの現状をどのように評価されていますか?
私はまだすべての構成資産を見ているわけではありませんが、関係者のまとめたレポートを読む限り、保存計画も、インタープリテーション戦略も順調に進展していると感じています。日本政府でも、関連自治体でも最高のエキスパートたちが取り組んでおり、その点に関しては全幅の信頼を置くことができると思います。
もちろん、端島(軍艦島)のように、多くの課題を抱える構成資産もあります。端島は寺院やギリシャの歴史遺産などとは異なり、生産設備、機械、さらには居住地区、学校、コミュニティースペースなどそこで暮らした労働者たちの遺産が含まれており、ユネスコ世界委員会は大変センシティブになっており、今後の保全のあり方に大きな関心を持っています。端島の保存は大きなチャレンジであり、その意味で「ダブリン原則」がどのように生かされるか、その真価が問われるケースになると言えましょう。
--「明治日本の産業革命遺産」はまさに「ダブリン原則」のテストケースであるということですね。
確かにイコモスにとっても、ティキにとっても、本遺産は「ダブリン原則」のテストケースであると言うことはできるでしょう。ですが、より重要なのは、あくまでも日本のイニシアティブで本遺産の保存・インタープリテーションが進んでいることです。本遺産は日本イコモスの西村幸夫先生とニール・コソン卿が主導した有識者会議でまとめられ、取り組んでいるプロジェクトなのです。主体は日本なのです。
今後の展開について専門家として1つ提案をすれば、例えば、端島で保存策を考える国際会議を開催してはいかがでしょうか。この「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を成功裏に実現したパートナーシップをどのようにしてさらに発展させるか。あるいは、「ダブリン原則」を今後の保存にどのように適用していくことが望ましいか。たくさんの課題を抱える端島に世界の専門家が集まり、率直に意見をぶつけ合う。そんなパネルが実現すれば、大変意義のあるイベントになると思います。
ーー本日は多忙な中をお時間をつくっていただき、有難うございました。
(インタビュー&執筆:高嶋健夫、通訳:戸谷美苗、写真:NCIH撮影)
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Vol.7
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Vol.4
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