明治日本の産業革命遺産
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PEOPLE

2017.06.06
Vol.19
歴史や文化を継承することは、次世代の技術革新を生み出す~"使いながら残す"に道を開いた「明治日本の産業革命遺産」~

工学院大学常務理事

後藤 治 氏
後藤 治 氏

■「登録有形文化財(建造物)制度」を創設した文化庁時代

--『産業遺産』は私が企画・編集を担当させていただいたのですが、私も「これはかなり先を行く内容だ」と思っていました。正直に言うと、「産業遺産という概念が社会的にどこまで理解されるか」については不安もありました。社内で企画を通すのも、実は大変でしたから(笑)。

 そもそも近代のものを文化財にすること自体がまだまだ大変な時代でしたし、ましてや「産業遺産」ですからね。「近代産業は伝統文化をダメにしたものじゃないか」といった認識さえあった頃ですから(笑)。

--文化庁の中でも当時はそうした認識が主流だったと伺っていますが、そうした中で先生はいわば“文化財行政の非主流”の近代の文化財を担当されたいたわけですよね。学生時代から近代の建造物をご自身の専門領域とされていたのですか?

 いやいや、私も東大大学院ではもっぱら神社仏閣のことを勉強していました(笑)。それで文化庁に入る前に、師事していた故・大河直躬(おおかわ・なおみ)先生に「これから(の文化財保存)は近代のものと国際協力の時代なので、私以外に適任者がいるのでは」と言ったら、「君が入ってそれをやればいい」と言われたんです。実際、文化庁に入ってからは近代の文化財を担当することになりました。

 入庁当時に一番話題になっていたのが、東京駅と丸の内の銀行倶楽部の保存でした。結局、銀行倶楽部は煉瓦造の往時の姿をファサード(建物正面の外壁)の一部だけ残す形で超高層ビルに建て替えられたのですが、専門家としては残念な結果でした。東京駅についても、当時はまだ文化財指定に対する合意形成もできないような時代でした。

--東京駅は今では建設当時の姿に復元され、東京の新しいシンボルとして人気の観光スポットになっているわけですから、この20年ほどの間に「近代化遺産」に対する社会の見方も、文化財としての保存のあり方も様変わりしたと言えそうですね。

 東京駅や銀行倶楽部の保存でご苦労された文化庁の先輩方を間近で見ていましたから、私は「企業が社会経済活動の中で文化財を保存するにはどうしたらよいか」を強く意識しながら、近代化遺産の保存施策を推進しました。ちょうど加藤さんが相談に来られた頃に、私は丸の内の明治生命館や日本橋の三井本館の重要文化財指定を担当し、実現にこぎ着けることができました。同時に、国の施設についても、法務省本館を耐震補修後に重要文化財に指定したり、これは私が直接の担当ではありませんが、明治期に架け直した現在の日本橋を重要文化財に指定したりと、要するに、今も現役で使用されている稼働遺産の重文指定に取り組みました。

--いずれも、稼働遺産という点では「明治日本の産業革命遺産」の主な構成資産と同じですね。

 共通点は多いですね。「使いながら残していく」ことは決して不可能ではない。とはいえ、日本の旧来の文化財保存のやり方では相容れない部分も多い。そこをどう折り合いを付けていくか。文化庁時代は、そうした新しい文化財保存のあり方を創っていく仕事を担当していたわけです。

--工学院大学教授になられて以降も、加藤さんとはいわば師弟関係の研究者のような形で交流、情報交換をずっと続けて来られたということですね。

 そうですね。例えば、岡山県高梁市成羽(なりわ)町に代々ベンガラの材料となるローハを生産していた豪商の西江邸という住宅があります。ここは西江さんが今もお住まいにしている住宅なのですが、これをどうやって保存するか、加藤さんのご紹介でご相談に乗ったりも致しました。文化庁時代に創った登録制度を、今度は民間の立場で活用して、一緒に西江邸の保存のあり方を考えたわけです。西江さんとは今もお付き合いをさせていただいていますが、こうした個別の文化財保存活動にもご協力致しました。

--先生が創設に深く関われた登録有形文化財制度は現在、どのくらいまでに広がっているのですか?

 平成8(96)年にスタートして、登録件数はすでに1万件を超えています。創った当時は年間500件の登録を目指したのですが、ほぼほぼ計画通りに順調に増えています。まだまだ課題もありますが、さらに充実、発展させたいですね。

--今後の課題はどのあたりに?

 基本的には、規制もかけない代わりに、公的なバックアップも少ないという制度なんです。国宝・重文は国がガッチリと規制をかけて保存していくことを主旨にしています。それに対して、登録文化財制度はむしろ国が登録した文化財をそれぞれの地域がまちづくりなどに生かすような仕組みづくりを目指しています。ですから、登録文化財を積極的に活用している地域に、国がもっともっとバックアップしていくような制度にしていくのが理想です。現状はまだそこまではなかなか行っていませんが、産業遺産などはまさにそうした地域振興に有用な文化財だと思いますね。2008年に出した『都市の記憶を失う前に』(白揚社新書)という本の中で、いろいろな事例や具体的な方法論を述べています。その本は産業遺産というよりは都市にある建造物についての記述が中心になっていますが、ご関心のある向きには参照していただければ幸いです。

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今回は、世界遺産登録決定祝賀会の様子をお伝えいたします。

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