明治日本の産業革命遺産
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PEOPLE

2024.02.20
Vol.56
明治日本の産業遺産は日本の誇り~先人たちの歩みを知ることは日本の教育を見つめ直すことに通じる

フジサンケイグループ 代表

株式会社フジ・メディア・ホールディングス取締役相談役

株式会社フジテレビジョン 取締役相談役

日枝 久
日枝 久

エネルギー問題について語り合うことが大切

加藤 今後の課題についてなのですが、会長が仰るとおり精神性を含めた明治日本の産業革命遺産を未来へと繋げていくことが重要だと考えています。ところが日本は逆走しているといいますか、ここへきて吉田松陰も坂本龍馬も教科書から消えました。覚えることが多すぎるという理由から歴史的な事象や関わる人物が大幅に削られたと発表されましたが、明治維新に関わる部分が端折られるというのは解せません。長州ファイブも消えましたし、伊藤博文にいたってはハルピンで暗殺された話ばかりが取り沙汰されて情けない限りです。

日枝 試験のために記憶させるのが教育ではない。歴史を通して何を後世に伝えるべきなのかというのが大事なところで。子供達が歴史から何を感じ、先人から何を習得するか。そうして得た知識や志しを自分の生きる術とし、あるいは日本を熟成させていくための糧にする。それこそが真の教育だろうと僕は思うんですね。だからまずは学校の先生に「明治日本の産業革命遺産」を学んでもらいたいなと思いますね。日本人が受け継いでいくべきスピリットを感じ取れば、日本の教育の流れが変わるのではないでしょうか。

加藤 そうあって欲しいのですが、日本の場合、流れが変わるのに時間がかかるというのが常で。

日枝 教育に限ったことではありませんよね。日本は何事においても摩擦を恐れて動きが止まってしまう傾向にあると僕は感じているのだけど。

加藤 そう思います。明治日本の産業革命遺産にしても、構成資産の一つである端島が韓国から強制労働に関わる島を世界遺産にするとは何事かと猛烈な批判に晒されていますが、それに対して国はフリーズ状態で……。放っておいても問題は一向に解決しないばかりか、強く主張した側に押し切られてしまうと私は危惧しています。そこで端島の件に関しては、当時、軍艦島で暮らしていた方々の証言を取ることにしたのです。現在、新宿の産業遺産情報センターで元住人の証言映像を公開しています。

日枝 まず日本人が真実を把握しなければいけませんよね。僕にしても真実を確証し、怯むことはないと強い心で受け止めることができました。康子さんは日本人だけでなく、韓国の人の証言も集めているのかという驚きもありました。それによれば当時、軍艦島で働いていた人達は、国籍に関係なく三菱が希望者を募り、正式に採用していたと。給料明細なども残っているそうだけれど、とにかく韓国の人達の暮らし向きも豊かだったことが浮き彫りになり、つまり強制労働などではなかったことが明白になったわけで、地道に真実というものを拾い集めていくことの大切さを感じました。

加藤 私自身のプロジェクトにおけるテーマは正面突破なのです。

日枝 なるほど規制改革に踏み切ったというのは、まさに文化庁に対して正面突破したと言えますね。

加藤 たとえば当初の流れのまま手をこまねいていたのでは山口の松下村塾が構成資産に入らなかった可能性があったわけです。1パーセントでも希望があるのなら、当たって砕けろという気持ちで、とにかく多くの方に直接お目にかかってダメな要因を傾聴し、こちらの構想をお伝えして理解を仰ぐということを積み重ねました。正面突破といって何でも強引に推し進めればよいというものではなく、さまざまな問題と冷静に向き合い、絡んだ糸を丹念に解きほぐしていく必要があります。心のアクセルとブレーキのバランスを保ちながら歩み続けることの大切さを習得しました。

日枝 それにしても快挙でした。僕は産業革命の時代に懸命に働いた人達の存在が希薄だということに対してイライラしていたので、世界遺産に登録されて非常にスッキリしました。偉人ばかりではない。たとえば炭鉱で働いていた人達だって命がけで石炭を掘っていたわけだから。つまり明治日本の産業革命遺産は、エネルギーの大切さを改めて日本人に伝える役割を担っていると僕は考えているんです。

加藤 本当にそうですね。ところが日本は明治に作った土台に胡坐をかいて、おかしな方向へ進みつつあるのが気になります。これから先も強い国力を維持していくためにどうすればいいのか? ということを考えなければいけないと思うのですが……。

日枝 ウクライナが国を守ろうと頑張っているのを見て、いろいろ考えさせられますね。

加藤 逃げないというのが凄いなと思います。現代の日本人は今だけよければいい、自分さえよければいいと、国家より自分を優先する人が目立ちます。その一方で若い世代には日本のためにと考える人も増えていているようにも感じますが、会長はどうお考えですか?

日枝 世代に関係なくさまざまな価値観の人がいるから一概には言えないけれど。いずれにしても自分さえよければいいという思考は最悪だね。想いも金も循環させなくては必ず行き詰ってしまう。明治の人達は我が事ではなく、日本のために、延いては未来の日本人のためにという一心で活動していたからこそ良い結果を生むことができたと僕は思うんですよ。それから産業を盛んにしなければ国は衰弱化するという教訓をもたらしてくれましたよね。

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<世界遺産登録の舞台裏>
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Vol.8
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Vol.7
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Vol.6
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Vol.5
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古賀 道雄 氏
Vol.4
国家、社会のため、広い視野と使命感を持って試行錯誤しつつ挑戦し続けた「明治の産業革命」の意義

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前 内閣官房 内閣参事官

岩本 健吾 氏
Vol.3
「鉄は釜石から八幡へ」 近代製鉄発祥の地から誇り高き文化を伝える

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野田 武則 氏
Vol.2
強く豊かな国家を目指して 薩摩藩主島津斉彬が築いた『集成館』

一般財団法人産業遺産国民会議 理事

島津興業 相談役

島津 公保 氏
Vol.1
産業国家日本の原点 『明治日本の産業革命遺産』を次世代へ

「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産登録推進協議会 会長/鹿児島県知事

伊藤 祐一郎 氏