明治日本の産業革命遺産
JAPANESE  ENGLISH

PEOPLE

2022.10.19
Vol. 49
明治日本の産業遺産に関する保全マニュアルの重要性とは? 

考古学者・遺産保存に関する国際コンサルタント

マイケル・ピアソン博士 
マイケル・ピアソン博士 

― 日本の産業遺産の保全管理の問題とは?

保全管理については、問題というより挑戦と、とらえたいと思っています。管理上の挑戦として、産業遺産は、日本が世界遺産として保存することに慣れている従来の遺産の範囲とは異なることが挙げられます。このうち3エリアの構成資産は明治時代からの稼働資産として現在もなお使われているものや、周囲に林業が盛んな韮山反射炉のような場所もあります。そのため、内閣官房が中心となり、新たな管理方法を創出する必要がありました。例えば、最古の洋風建築(旧グラバー住宅)や日本最古の煉瓦造りの建物(小菅修船場跡の曳揚げ小屋)などがあります。これら遺産は静態史跡(つまり、文化財)として扱うことはできません。それらは産業遺産であり、かつ、産業が停止している建築物です。この2つの意味合いをもつ建築物は、日本の世界遺産として、珍しいものです。

このような洋風建築物は、日本古来の建築物とは異なる保存修復のアプローチが必要です。定期的に大掛かりな保存修復活動を行うよりも、継続的なメンテナンスと時間をかけた修理・修繕が必要です。また、多くの熟練伝統工芸職人が必要となるでしょう。各エリアの行政管理機関では、管理者の頻繁な入れ替わりを経験しています。その中で、これらの構成資産を保全し管理する新しいスキルを習得し、その知識を継承していかなければなりません。

― 「産業遺産保全マニュアル」の範囲と目的及び全マニュアルプログラムの全体像について教えてください。

産業遺産管理マニュアルは、「明治日本の産業革命遺産」の各構成資産に求められる条件や必要性を考慮した独自のマニュアルです。それは、各構成資産に特化した保全管理のあり方を総括し、世界遺産センターに、どのような活動が構成資産に対してなされたのかを報告する際のポイントのまとめです。さらに、構成資産の管理者が、それぞれの仕事の背景を理解し、さまざまな管理業務を遂行するための一助となることを目的としています。特に、日本では一般的に公務員の入れ替わりが頻繁に行われますので、組織の縮小や人員の入れ替わりの激しいエリアでは特に重要です。例えば、2015年以前に世界遺産への推薦や登録時に在籍していた各地域の責任者や管理職の方々は、今ではほとんど在籍していません。

また、現在、私たちが取り組んでいるこの保全マニュアルのアプローチと、文化庁が一連の世界遺産で用いている既存の管理システムとの整合性を模索している最中です。しかし、私たちのマニュアルは、全く新しい方法を導入するということではなく、かつ、すでに確立されているプロセスを覆すということでもありません。しかし、先ほどの回答でも少し触れましたが、それぞれの管理者が、各構成資産が  世界遺産としての目標を維持するために必要な特定の課題やアプローチを理解できるようにしたいと考えています。

私たちは、保全管理マニュアル(各エリアにつき2種類)が両輪として共存できると考えており、その目的達成の為に順次採用されていくことでしょう。

Backnumber>一覧へ
Vol.57
日本の未来のために今を生きる~明治日本の産業革命遺産の使命は「先人のスピリットを活かしていけば日本は救われる」という気づきと勇気を与えること

元、三菱重工長崎造船所所長

橋本 州史
Vol.56
明治日本の産業遺産は日本の誇り~先人たちの歩みを知ることは日本の教育を見つめ直すことに通じる

フジサンケイグループ 代表

株式会社フジ・メディア・ホールディングス取締役相談役

株式会社フジテレビジョン 取締役相談役

日枝 久
Vol.55
世界遺産登録までの道のりは、山あり谷ありだった~人の縁という運に恵まれ、救われ、道を拓いて~

日本港湾空港建設協会連合会 顧問(元、一般財団法人 港湾空港総合技術センター理事長)

林田 博
Vol.54
『侍が、カンパニーへ』という歴史的流れは日本の誇り~明治日本の産業遺産の中心的存在である長崎がリードして次世代へつなぐ

長崎市長

鈴木史郎
Vol.53
日本で初めて反射炉を作った佐賀藩、洋式海軍の拠点だった「三重津海軍所」~世界遺産登録に注いだ情熱を次世代に繋ぎたい。

前、佐野常民記念館(現、佐野常民と三重津海軍所跡の歴史館)館長

江口 善己
Vol.52
八幡製鉄所は、今も世界最先端のものづくりを作り続ける現役製鉄所 

一般財団法人産業遺産国民会議 理事
特定非営利活動法人 里山を考える会 理事

網岡 健司
Vol.51
吉田松陰や幕末の志士たちの熱き想い、急速な産業化を通して日本を支えた優れた功績 ~ 松陰神社には明治維新に至る歴史をきちんと伝えていく使命がある

松陰神社 名誉宮司

上田 俊成
Vol.50
稼働資産「三池港」を世界遺産にする秘策とは。

元大牟田市長

古賀 道雄
Vol. 49
明治日本の産業遺産に関する保全マニュアルの重要性とは? 

考古学者・遺産保存に関する国際コンサルタント

マイケル・ピアソン博士 
Vol.48
金属学の視点から紐解いて明らかになった産業史の真実~日本人の聡明さ、勤勉さ、不屈の精神を次世代へ伝えることが明治日本の産業革命遺産の使命~

日本工学会フェロー

稲角 忠弘
Vol.47
明治日本の産業革命遺産は偉大な教材、覗けば見えてくる様々な世界

元新日本製鐵株式会社社員、世界遺産登録推進室産業プロジェクトチームメンバー

菅 和彦
Vol.46
鹿児島から始まった鉄の歴史が日本の近代化を飛躍的に前進させた~薩摩人のバイタリティを、未来に生きる若い世代に引き継いでいきたい~

鹿児島県知事

塩田 康一
Vol.45
吉田松陰が工業教育論を説き、命がけで英国へ渡った長州ファイブを輩出~誇らしき萩スピリットを後進へとつなげるために~

萩市長

田中 文夫 氏
Vol.44
三角西港を作った先人の知恵、技術、行動力を子供たちの代へと継承していきたい~コロナ後も続く未来を見据えて今できることに全力で取り組む~

熊本県宇城市長

守田 憲史 氏
Vol.43
官営八幡製鐵所は「1枚の古写真」から世界遺産になった!~元日鉄マンが明かす、"登録前夜"のとっておきのエピソード~

元新日本製鐵株式会社社員

水口 政義 氏(みなくちまさよし)
Vol.42
外に向かって発信する「新しい地元学」を確立したい ~「釜石の誇り」から「日本・世界の中の釜石の誇り」へ!~

岩手大学理工学部 准教授

小野寺 英輝 氏
Vol.41
観光ガイド歴18年、あふれ出る"三角西港愛"~世界遺産登録はゴールではなく、新たな出発点~

三角西港観光ガイドの会 会長

齊藤 万芳 氏(さいとうまんぽう)
Vol.40
韮山反射炉とともに「刻」をきざむ~物産館&レストラン事業で"反射炉観光"の魅力度アップ~

株式会社蔵屋鳴沢 代表取締役社長

一般社団法人伊豆の国市観光協会会長

稲村 浩宣 氏
Vol.39
運命に導かれて軍艦島デジタルミュージアムを設立~明治日本の産業革命遺産の価値を広く深く伝えるために、自分にできることを始めて、続けて、やり切りたい~

軍艦島コンシェルジュ取締役統括マネージャー

軍艦島デジタルミュージアムプロデユーサー

久遠 裕子 氏
Vol.38
産業遺産の主役は「人」~世界遺産登録を経て再認識した故郷の素晴らしさ~

峠の茶屋 オーナー

小笠原 静子 氏
Vol.37
すべては長崎の経済発展のために~海運業の枠を超え、長崎の文化や産業遺産の歴史を伝承~

やまさ海運株式会社会長

やまさ海運株式会社社長

伊達 秀則 氏 伊達 昌宏 氏
Vol.36
釜石の奇跡と、震災を乗り越えて~世界遺産登録という大きなチャンス~

宝来館 女将

岩崎 昭子 氏
Vol.35
韮山反射炉とともに後世に伝えたい「850年の歴史資料」 ~待望の新・収蔵庫が完成、保存・修復・活用に弾み

公益財団法人江川文庫 代表理事

江川家42代当主

江川 洋 氏
Vol.34
不屈の開拓精神と先人のパワーで時代を切り拓いた歴史~後世へ受け継がれる希望と大きな力~

国民民主党長崎県連代表

高木 義明  氏
Vol.33
軍艦島は「地球と人類の未来への警告のメッセージ」~元島民ガイドが訴える想いと願い~

NPO法人軍艦島を世界遺産にする会 理事長

坂本 道徳 氏
Vol.32
「シンクロニシティー」が生んだ世界遺産登録という奇跡~想いの強さが志ある人々の共感を呼び起こした!~

エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社 代表取締役

大上 二三雄 氏
Vol.31
日本の人達にパワーを~明治日本の産業革命遺産の使命~

渡辺プロダクショングループ代表・株式会社渡辺プロダクション名誉会長

渡邊 美佐 氏
Vol.30
産業遺産の歩みを"100年後を生きる人々"への希望に

参議院議員

平野 達男 氏
Vol.29
"21世紀の薩摩ステューデント"よ、未来を創れ!~旧集成館は鹿児島観光の情報発信拠点~

鹿児島県知事

三反園 訓 氏
Vol.28
各地域に着実に広がる「つながりあるストーリー」という意識~保全管理・インタープリテーションのあり方には課題も~

世界遺産コンサルタント

サラ・ジェーン・ブラジル(Sarah Jane Brazil)氏
Vol.27
《為せば成る為さねば成らぬ何事も》~人とつながるための勇気や行動力を~

特定非営利活動法人 九州・アジア経営塾 理事長兼塾長

株式会社SUMIDA 代表取締役

橋田 紘一 氏
Vol.26
「日本人として、世界に対して誇りを持って発信できる世界遺産」〜内閣官房・有識者会議の流れを決したジャーナリストの視点〜

ジャーナリスト、「下村満子の生き方塾」塾長

下村 満子 氏
Vol.25
クラシックカーが「明治日本の産業革命遺産」を走る!~2019年、九州で「ラリーニッポン」を開催~

一般財団法人ラリーニッポン 代表理事

小林 雄介 氏
Vol.24
着々と進む"世界遺産周遊ルート"の整備・振興 ~推進協議会、多彩なプロモーションで世界に向けて魅力発信!~

明治日本の産業革命遺産世界遺産ルート推進協議会会長

一般財団法人産業遺産国民会議理事

(九州旅客鉄道株式会社 相談役)

石原 進 氏
Vol.23
「遺産観光」の振興に向けたルート整備にいっそうの力を~忘れ難い故郷・呉への空襲と広島原爆の記憶~

一般財団法人産業遺産国民会議 代表理事

(公益財団法人資本市場振興財団 顧問)

保田 博 氏
Vol.22
世界とつながる町~"長崎のたから"を"世界のたから"へ~

長崎市長

田上 富久 氏
Vol.21
「ICOMOS-TICCIH共同原則」の真価問われる"世界の実験場"~日本政府が推進する新たな保全へのチャレンジ~

ヘリテージ・モントリオール政策部長

ディヌ・ブンバル(Dinu Bumbaru )氏
Vol.20
忘れ難いS・スミス氏との激論の日々 ~異文化の中で出会った"なじみ深い19世紀の産業遺産"~

世界遺産コンサルタント

バリー・ギャンブル(Barry Gamble)氏
Vol.19
歴史や文化を継承することは、次世代の技術革新を生み出す~"使いながら残す"に道を開いた「明治日本の産業革命遺産」~

工学院大学常務理事

後藤 治 氏
Vol.18
シリアル登録方式の保全管理に新たな道を拓いた「明治日本の産業革命遺産」-- 今後の大きな課題は「記憶と理解を引き継ぐ人材研修」

ヘリテージ保全並びに世界遺産の専門家としてグローバルに活躍する国際コンサルタント

ダンカン・マーシャル(Duncan Marshall)氏
Vol.17
ジャイアント・カンチレバークレーンと小菅修船場跡の3Dデジタル・ドキュメンテーション

The Glasgow School of Art’s School of Simulation and Visualization、データ・アクイジション責任者

アラステア・ローリンストン 氏
Vol.16
日本で注目される「産業遺産」

ヒストリック・スコットランド産業遺産政策責任者

マイルズ・オグリソープ博士
Vol.15
「スコティッシュ・テン プロジェクト」によるデジタル文書化

ヒストリック・スコットランド

スコティッシュ・テン プロジェクト・マネージャー

リン・ウィルソン博士
Vol.14
富士山と韮山反射炉、2つの世界遺産を一望できる茶畑の丘 --次の夢は「子どものためのミニ反射炉」で体験学習

静岡県伊豆の国市長

小野 登志子 氏
Vol.13
登録までの道のりと資産の今後を見つめて

ロイヤル・カレッジ・オブ・アート副学長・評議会議長

イングランド・ウェールズにおけるカナル&リバートラスト遺産顧問

ニール・コソン卿
Vol.12
正確な情報発信の中で、歴史を見つめるきっかけに

東京立正短期大学 学長

慶應義塾大学 名誉教授

工藤 教和 氏
Vol.11
「ものづくりの街・北九州」への愛着と誇り--"シビック・プライド"を呼び起こしてくれた世界文化遺産登録

北九州市長

北橋 健治 氏
Vol.10
世界遺産登録決定祝賀会レポート(@ドイツ・ボン)

2015年6月28日から7月8日まで、ドイツ・ボンにて第 39 回世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が決定しました。

今回は、世界遺産登録決定祝賀会の様子をお伝えいたします。

<世界遺産登録の舞台裏>
Vol.9
使いながら保存する-「稼働遺産」の保存・活用に新たな道を拓く

阪神高速道路株式会社 取締役兼常務執行役員

(一般財団法人産業遺産国民会議 理事)

岡本 博 氏
Vol.8
港湾法の体系で、世界遺産の保全を担保する

静岡県副知事

難波 喬司 氏
Vol.7
近代化を切り拓いた長州ファイブと試行錯誤の痕跡を残す萩の資産

萩市長

野村 興兒 氏
Vol.6
日本の「ものづくり」「産業」の原点を伝える「明治日本の産業革命遺産」

東京地下鉄株式会社 代表取締役会長

安富 正文 氏
Vol.5
日本の近代工業化を石炭産業によって支えた三池エリア

大牟田市長

古賀 道雄 氏
Vol.4
国家、社会のため、広い視野と使命感を持って試行錯誤しつつ挑戦し続けた「明治の産業革命」の意義

文部科学省 生涯学習政策局 生涯学習総括官
前 内閣官房 内閣参事官

岩本 健吾 氏
Vol.3
「鉄は釜石から八幡へ」 近代製鉄発祥の地から誇り高き文化を伝える

釜石市長

野田 武則 氏
Vol.2
強く豊かな国家を目指して 薩摩藩主島津斉彬が築いた『集成館』

一般財団法人産業遺産国民会議 理事

島津興業 相談役

島津 公保 氏
Vol.1
産業国家日本の原点 『明治日本の産業革命遺産』を次世代へ

「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産登録推進協議会 会長/鹿児島県知事

伊藤 祐一郎 氏