明治日本の産業革命遺産
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PEOPLE

2016.04.30
Vol.9
使いながら保存する-「稼働遺産」の保存・活用に新たな道を拓く

阪神高速道路株式会社 取締役兼常務執行役員

(一般財団法人産業遺産国民会議 理事)

岡本 博 氏
岡本 博 氏


■「最も頼りになるアドバイザー」として、関係者に仲介

--その過程では、岡本さんはご自身のネットワークを活かし、地元九州や中央のキーパーソンに仲介する労をおとりになられたそうですね。

それほど大げさなことではありませんが、例えば、当時の福岡県の土木部長さん、長崎県の副知事さんなどの地元自治体の関係者に「一度話を聞いてやってほしい」と一言声を掛けたことはありました。このおふた方はともに国交省の出身だったので、そうしたご協力は致しました。

中央の関係でも、直接間接に知っている方々が多かったのは確かですね。実質的にこの構想を仕切っておられた和泉洋人・内閣官房地域活性化統合事務局長(現内閣総理大臣補佐官)も国交省出身で、以前から存じ上げていました。また、当財団の顧問になられている林田博・新日鐵住金顧問も国交省のご出身です。そんな形で段々と応援団の輪が広がっていった。これも人のご縁というものなのでしょう。

--林田顧問と同様に、岡本さんも当財団の理事に就任されています。どんな経緯でお引き受けになられたのでしょうか?

九州整備局長を3年間務めた後、私は国土地理院院長に転じました。その当時、それも地理院からもそろそろ引く頃に加藤さんからお電話をいただき、「近く推進母体となる財団法人を設立するので、是非とも理事に就任してください」とお声がけいただきました。「世界遺産登録を実現するには官の力だけではダメ。民間の力も結集しなければならない。そのための受け皿をつくりたい」とのことでしたので、「もう九州からも離れているし、どこまでお役に立つかわからないが」と念押ししたうえで、喜んでお引き受けすることにした次第です。産業遺産国民会議の理事・役員にはそうそうたる顔ぶれが並んでいますが、私のような者を末席に加えていただき大変光栄に思っています。

--加藤専務理事は「岡本さんは最も頼りになるアドバイザー」と言っています。

愚痴の聞き役、あるいは“なだめ役”といったところではないでしょうか。大阪に拠点がある今は財団の理事会ぐらいしか直接お目にかかる機会はないのですが、ときどきお電話をいただきます。加藤さんがしょげかえっている時には叱咤激励し、いきり立っている時には「まあまあ、少し頭を冷やして」とクールダウンを促す。いつの間にか、そんな役回りを仰せつかっているようです(笑)。

--多くの人たちが力を合わせた成果とはいえ、加藤康子という類い希な構想力と実行力を持ったエンジンがいなければ、世界遺産登録が実現しなかったことは事実だと思います。岡本さんから見て、加藤専務理事の人間的魅力はどんな点にあると思われますか?

思い込んだら命がけ、というところがありますよね。「明治日本の産業革命遺産」の価値に誰よりも早く気づき、強烈な意志と信念で世界遺産登録を実現した。そして、今も極めて情熱的に活動を続けている。ときに思い入れが強過ぎて、周囲が困惑する場面もありますが(笑)。それでも信念にブレがないから周りの人たちも共感し、一緒に知恵を絞り、汗を流して協力してくれる。

彼女の特筆すべき点は、単に研究したり、評論したりするだけでなく、自ら行動し、周囲を巻き込んで世界遺産という形にしてしまった実行力でしょう。大げさに言えば、それまで文化財とは認識されていなかったモノを文化財として認めさせた。そのために、今までの国の仕組みを変えてしまったとも言えます。「稼働遺産」という概念も、各地に点在する複数の関連遺産群を1つのストーリーにまとめて捉える「シリアルノミネーション」という手法も、日本の世界遺産では今回初めて実現したもの。歴史遺産の認定や保存に新しい道を拓いたわけですよね。これは本当にスゴイことだと思います。

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Vol.56
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「ICOMOS-TICCIH共同原則」の真価問われる"世界の実験場"~日本政府が推進する新たな保全へのチャレンジ~

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忘れ難いS・スミス氏との激論の日々 ~異文化の中で出会った"なじみ深い19世紀の産業遺産"~

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バリー・ギャンブル(Barry Gamble)氏
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ジャイアント・カンチレバークレーンと小菅修船場跡の3Dデジタル・ドキュメンテーション

The Glasgow School of Art’s School of Simulation and Visualization、データ・アクイジション責任者

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Vol.10
世界遺産登録決定祝賀会レポート(@ドイツ・ボン)

2015年6月28日から7月8日まで、ドイツ・ボンにて第 39 回世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が決定しました。

今回は、世界遺産登録決定祝賀会の様子をお伝えいたします。

<世界遺産登録の舞台裏>
Vol.9
使いながら保存する-「稼働遺産」の保存・活用に新たな道を拓く

阪神高速道路株式会社 取締役兼常務執行役員

(一般財団法人産業遺産国民会議 理事)

岡本 博 氏
Vol.8
港湾法の体系で、世界遺産の保全を担保する

静岡県副知事

難波 喬司 氏
Vol.7
近代化を切り拓いた長州ファイブと試行錯誤の痕跡を残す萩の資産

萩市長

野村 興兒 氏
Vol.6
日本の「ものづくり」「産業」の原点を伝える「明治日本の産業革命遺産」

東京地下鉄株式会社 代表取締役会長

安富 正文 氏
Vol.5
日本の近代工業化を石炭産業によって支えた三池エリア

大牟田市長

古賀 道雄 氏
Vol.4
国家、社会のため、広い視野と使命感を持って試行錯誤しつつ挑戦し続けた「明治の産業革命」の意義

文部科学省 生涯学習政策局 生涯学習総括官
前 内閣官房 内閣参事官

岩本 健吾 氏
Vol.3
「鉄は釜石から八幡へ」 近代製鉄発祥の地から誇り高き文化を伝える

釜石市長

野田 武則 氏
Vol.2
強く豊かな国家を目指して 薩摩藩主島津斉彬が築いた『集成館』

一般財団法人産業遺産国民会議 理事

島津興業 相談役

島津 公保 氏
Vol.1
産業国家日本の原点 『明治日本の産業革命遺産』を次世代へ

「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産登録推進協議会 会長/鹿児島県知事

伊藤 祐一郎 氏