鹿児島から始まった鉄の歴史が日本の近代化を飛躍的に前進させた~薩摩人のバイタリティを、未来に生きる若い世代に引き継いでいきたい~
塩田 集成館事業は、西洋から伝わってきたヒューゲニンの一冊の本を頼りに鉄を作るということから始まったわけですが、実はその前段階があったという証として、知覧のほうに製鉄遺跡が残っています。奥出雲のたたら製鉄とは違って、小川の水が流れるところで作っていたと聞いています。というのも、もとより鹿児島には川尻浜のあたりには砂鉄が存在するなどの環境があり、そこにヒューゲニンの一冊の本と薩摩焼や煉瓦をつくる地元の技術が結びついて鉄づくりをしようという発想が生まれ、集成館事業が始まったと考えています。
加藤 なるほど。
塩田 斉彬公が亡くなったあと、大島高任が岩手県釜石市で我が国最初の洋式高炉「大橋高炉」を作って鉄鉱石精錬による出銑に成功し、大島高任が亡くなった年に八幡製鉄所が完成したという流れですので。
加藤 つまり鉄の始まりは釜石ではなく、鹿児島だと。
塩田 いずれにしても幕末に日本の産業が素晴らしい発展を遂げたという事実に変わりはないのですが、鹿児島愛の強い私といたしましてはそこのところを強調したいなと。
加藤 私は鹿児島愛に溢れたコラムを拝読して、塩田さんが鹿児島のご出身であることを知りまして、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録にご理解いただけるはずだと確信したのです。
塩田 そうでしたか。
加藤 日本では前例のないシリアルノミネーション、点在する遺産群を世界遺産として登録するという試みだったこともあり、なかなか理解されづらいというのが悩ましい問題でした。それから8県11市、23の構成資産で一つの世界遺産価値があるということが、各自治体の関係者にすれば複雑で。自分の管轄の地域だけで完結するわけにはいきませんので、そうしたことも難航した一つの要因だったように思うのです。塩田知事にご理解いただき、大変に心強く、また心から感謝しています。
薩摩の人たちの中に息づいているバイタリティというDNA
塩田 鉄鋼課長の後は経済産業省中国経済産業局に移り、広島県で任務にあたっていました。そうした中、山口県の萩市長など産業遺産の構成資産としてノミネートされている地域の方々とお会いする機会があり、世界遺産登録のことについて話すこともありました。
加藤 経済産業政策局地域経済産業政策課長に就任されたのは何年でしたか?
塩田 2013年です。そこから「明治日本の産業革命遺産」は「三菱長崎造船所」「官営八幡製鐵所」「三池港」などの稼働資産が含まれている、日本では他に例を見ない形の世界遺産を目指しているということで、様々な問題と向き合うことになりました。
加藤 世界遺産登録までの道のりにはさまざまなことがありましたが、最も大きな壁として立ちはだかっていたのが文化財保護法の問題でした。稼働資産に適用すると企業の経済活動に影響を及ぼすという理由から文化庁が首を縦に振らなかった。それどころか論外であると跳ね除けられてしまったのです。結局のところ、規制改革を通して新しい枠組みを作ることで壁を乗り越えることができたのですが、塩田知事は規制改革から新しい枠組みを作るという流れについてはどのようにお感じになりましたか?
塩田 私は文化財保護法をガチガチに守るというよりは、そういった枠組みの中で価値を活かしていくという意味で良い判断だったのではないかと思います。
加藤 おそらく文化庁の推薦だけではスムーズに登録まで至らなかったでしょう。まず官房で新しい枠組みを作ったからこそ、すべての省庁、それから民間企業が参画するという動きが起きた。その力がなければ世界遺産登録を成し遂げることはできなかったと思います。塩田知事には内閣官房の中で中心になってバックアップしていただき、本当にありがとうございました。
塩田 いえいえ。加藤さんの一歩も引かない姿勢、たゆまぬ努力があってこそ道を拓くことができたと思います。
加藤 恐れ入ります。でも、やはり私は、鹿児島県の協議会事務局が、様々な思いを持っている各自治体を引っ張り切ることができたことが大きかったと感謝せずにはいられません。やはり薩摩の人には胆力があると痛感しました。バイタリティのある明治時代の人たちのDNAがしっかりと引き継がれ、今もしっかりと息づいていると。
塩田 当時、鹿児島県知事を務めておられた伊藤さんがそういう方だと思います。
加藤 確かに伊藤さんもバイタリティを発揮してくださいましたが、同時に塩田知事を始めとする鹿児島の人達が他の自治体を引っ張るための忍耐力を備えておられました。胆力と忍耐力を兼ね揃えるというのは容易なことではありません。同じことを日本全国のどの地域でもできたかと言ったら、正直なところ難しかっただろうと思うのです。南の玄関口を守ってこられた信念の強い薩摩の方々とタッグを組むことができたのはラッキーでした。
塩田 そう言っていただけると嬉しいです。
Vol.59
~産業遺産情報センターの主任研究員として、文化遺産の魅力を発信~
産業遺産情報センター主任研究員
日本鉱業株式会社 名誉顧問
釜石応援ふるさと大使
Vol.58
世界遺産を守っていくために必要なのは本質的なことを見落とさない視点
一般財団法人長崎ロープウェイ・水族館理事長
前、長崎市世界遺産推進室室長
Vol.57
日本の未来のために今を生きる~明治日本の産業革命遺産の使命は「先人のスピリットを活かしていけば日本は救われる」という気づきと勇気を与えること
Vol.56
明治日本の産業遺産は日本の誇り~先人たちの歩みを知ることは日本の教育を見つめ直すことに通じる
フジサンケイグループ 代表
株式会社フジ・メディア・ホールディングス取締役相談役
株式会社フジテレビジョン 取締役相談役
Vol.55
世界遺産登録までの道のりは、山あり谷ありだった~人の縁という運に恵まれ、救われ、道を拓いて~
日本港湾空港建設協会連合会 顧問(元、一般財団法人 港湾空港総合技術センター理事長)
Vol.54
『侍が、カンパニーへ』という歴史的流れは日本の誇り~明治日本の産業遺産の中心的存在である長崎がリードして次世代へつなぐ
Vol.53
日本で初めて反射炉を作った佐賀藩、洋式海軍の拠点だった「三重津海軍所」~世界遺産登録に注いだ情熱を次世代に繋ぎたい。
前、佐野常民記念館(現、佐野常民と三重津海軍所跡の歴史館)館長
Vol.52
八幡製鉄所は、今も世界最先端のものづくりを作り続ける現役製鉄所
一般財団法人産業遺産国民会議 理事
特定非営利活動法人 里山を考える会 理事
Vol.51
吉田松陰や幕末の志士たちの熱き想い、急速な産業化を通して日本を支えた優れた功績 ~ 松陰神社には明治維新に至る歴史をきちんと伝えていく使命がある
Vol.50
稼働資産「三池港」を世界遺産にする秘策とは。
Vol. 49
明治日本の産業遺産に関する保全マニュアルの重要性とは?
Vol.48
金属学の視点から紐解いて明らかになった産業史の真実~日本人の聡明さ、勤勉さ、不屈の精神を次世代へ伝えることが明治日本の産業革命遺産の使命~
Vol.47
明治日本の産業革命遺産は偉大な教材、覗けば見えてくる様々な世界
元新日本製鐵株式会社社員、世界遺産登録推進室産業プロジェクトチームメンバー
Vol.46
鹿児島から始まった鉄の歴史が日本の近代化を飛躍的に前進させた~薩摩人のバイタリティを、未来に生きる若い世代に引き継いでいきたい~
Vol.45
吉田松陰が工業教育論を説き、命がけで英国へ渡った長州ファイブを輩出~誇らしき萩スピリットを後進へとつなげるために~
Vol.44
三角西港を作った先人の知恵、技術、行動力を子供たちの代へと継承していきたい~コロナ後も続く未来を見据えて今できることに全力で取り組む~
Vol.43
官営八幡製鐵所は「1枚の古写真」から世界遺産になった!~元日鉄マンが明かす、"登録前夜"のとっておきのエピソード~
Vol.42
外に向かって発信する「新しい地元学」を確立したい ~「釜石の誇り」から「日本・世界の中の釜石の誇り」へ!~
Vol.41
観光ガイド歴18年、あふれ出る"三角西港愛"~世界遺産登録はゴールではなく、新たな出発点~
Vol.40
韮山反射炉とともに「刻」をきざむ~物産館&レストラン事業で"反射炉観光"の魅力度アップ~
株式会社蔵屋鳴沢 代表取締役社長
一般社団法人伊豆の国市観光協会会長
Vol.39
運命に導かれて軍艦島デジタルミュージアムを設立~明治日本の産業革命遺産の価値を広く深く伝えるために、自分にできることを始めて、続けて、やり切りたい~
軍艦島コンシェルジュ取締役統括マネージャー
軍艦島デジタルミュージアムプロデユーサー
Vol.38
産業遺産の主役は「人」~世界遺産登録を経て再認識した故郷の素晴らしさ~
Vol.37
すべては長崎の経済発展のために~海運業の枠を超え、長崎の文化や産業遺産の歴史を伝承~
Vol.36
釜石の奇跡と、震災を乗り越えて~世界遺産登録という大きなチャンス~
Vol.35
韮山反射炉とともに後世に伝えたい「850年の歴史資料」 ~待望の新・収蔵庫が完成、保存・修復・活用に弾み
Vol.34
不屈の開拓精神と先人のパワーで時代を切り拓いた歴史~後世へ受け継がれる希望と大きな力~
Vol.33
軍艦島は「地球と人類の未来への警告のメッセージ」~元島民ガイドが訴える想いと願い~
Vol.32
「シンクロニシティー」が生んだ世界遺産登録という奇跡~想いの強さが志ある人々の共感を呼び起こした!~
エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社 代表取締役
Vol.31
日本の人達にパワーを~明治日本の産業革命遺産の使命~
渡辺プロダクショングループ代表・株式会社渡辺プロダクション名誉会長
Vol.30
産業遺産の歩みを"100年後を生きる人々"への希望に
Vol.29
"21世紀の薩摩ステューデント"よ、未来を創れ!~旧集成館は鹿児島観光の情報発信拠点~
Vol.28
各地域に着実に広がる「つながりあるストーリー」という意識~保全管理・インタープリテーションのあり方には課題も~
サラ・ジェーン・ブラジル(Sarah Jane Brazil)氏
Vol.27
《為せば成る為さねば成らぬ何事も》~人とつながるための勇気や行動力を~
特定非営利活動法人 九州・アジア経営塾 理事長兼塾長
株式会社SUMIDA 代表取締役
Vol.26
「日本人として、世界に対して誇りを持って発信できる世界遺産」〜内閣官房・有識者会議の流れを決したジャーナリストの視点〜
Vol.25
クラシックカーが「明治日本の産業革命遺産」を走る!~2019年、九州で「ラリーニッポン」を開催~
Vol.24
着々と進む"世界遺産周遊ルート"の整備・振興 ~推進協議会、多彩なプロモーションで世界に向けて魅力発信!~
明治日本の産業革命遺産世界遺産ルート推進協議会会長
一般財団法人産業遺産国民会議理事
(九州旅客鉄道株式会社 相談役)
Vol.23
「遺産観光」の振興に向けたルート整備にいっそうの力を~忘れ難い故郷・呉への空襲と広島原爆の記憶~
一般財団法人産業遺産国民会議 代表理事
(公益財団法人資本市場振興財団 顧問)
Vol.22
世界とつながる町~"長崎のたから"を"世界のたから"へ~
Vol.21
「ICOMOS-TICCIH共同原則」の真価問われる"世界の実験場"~日本政府が推進する新たな保全へのチャレンジ~
Vol.20
忘れ難いS・スミス氏との激論の日々 ~異文化の中で出会った"なじみ深い19世紀の産業遺産"~
Vol.19
歴史や文化を継承することは、次世代の技術革新を生み出す~"使いながら残す"に道を開いた「明治日本の産業革命遺産」~
Vol.18
シリアル登録方式の保全管理に新たな道を拓いた「明治日本の産業革命遺産」-- 今後の大きな課題は「記憶と理解を引き継ぐ人材研修」
ヘリテージ保全並びに世界遺産の専門家としてグローバルに活躍する国際コンサルタント
ダンカン・マーシャル(Duncan Marshall)氏
Vol.17
ジャイアント・カンチレバークレーンと小菅修船場跡の3Dデジタル・ドキュメンテーション
The Glasgow School of Art’s School of Simulation and Visualization、データ・アクイジション責任者
Vol.15
「スコティッシュ・テン プロジェクト」によるデジタル文書化
ヒストリック・スコットランド
スコティッシュ・テン プロジェクト・マネージャー
Vol.14
富士山と韮山反射炉、2つの世界遺産を一望できる茶畑の丘 --次の夢は「子どものためのミニ反射炉」で体験学習
Vol.13
登録までの道のりと資産の今後を見つめて
ロイヤル・カレッジ・オブ・アート副学長・評議会議長
イングランド・ウェールズにおけるカナル&リバートラスト遺産顧問
Vol.12
正確な情報発信の中で、歴史を見つめるきっかけに
Vol.11
「ものづくりの街・北九州」への愛着と誇り--"シビック・プライド"を呼び起こしてくれた世界文化遺産登録
Vol.10
世界遺産登録決定祝賀会レポート(@ドイツ・ボン)
2015年6月28日から7月8日まで、ドイツ・ボンにて第 39 回世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録が決定しました。
今回は、世界遺産登録決定祝賀会の様子をお伝えいたします。
Vol.9
使いながら保存する-「稼働遺産」の保存・活用に新たな道を拓く
阪神高速道路株式会社 取締役兼常務執行役員
(一般財団法人産業遺産国民会議 理事)
Vol.8
港湾法の体系で、世界遺産の保全を担保する
Vol.7
近代化を切り拓いた長州ファイブと試行錯誤の痕跡を残す萩の資産
Vol.6
日本の「ものづくり」「産業」の原点を伝える「明治日本の産業革命遺産」
Vol.5
日本の近代工業化を石炭産業によって支えた三池エリア
Vol.4
国家、社会のため、広い視野と使命感を持って試行錯誤しつつ挑戦し続けた「明治の産業革命」の意義
文部科学省 生涯学習政策局 生涯学習総括官
前 内閣官房 内閣参事官
Vol.3
「鉄は釜石から八幡へ」 近代製鉄発祥の地から誇り高き文化を伝える
Vol.2
強く豊かな国家を目指して 薩摩藩主島津斉彬が築いた『集成館』
一般財団法人産業遺産国民会議 理事
島津興業 相談役
Vol.1
産業国家日本の原点 『明治日本の産業革命遺産』を次世代へ
「九州・山口の近代化産業遺産群」世界遺産登録推進協議会 会長/鹿児島県知事