観光ガイド歴18年、あふれ出る"三角西港愛"~世界遺産登録はゴールではなく、新たな出発点~
■コロナに負けるな! 土日・祝日の「定時ガイド」をスタート
--本業はミカン、デコポンなどを生産する農家ということですが、収穫期をはじめお仕事が忙しい時でもガイドの仕事は休まないとか。
齊藤:西港関係の活動の合間に、仕事をしています(笑)。実際のところ、1年の半分くらいは休んでいる状態です。こんなことができるのも、全ては家内の恵理子のおかけ。結婚して46年になるのですが、先日、あるテレビ番組で懺悔をいたしまして、それで「46年分の不満とうっぷんをチャラにしてあげる」と言ってもらったんですが、その翌日からまた怒られています(笑)。
--「三角西港の生き字引」のような存在の齊藤さんですが、ガイドとして、実際に年間何人くらいの人を案内されているんですか?
齊藤:ガイド件数全体の集計があるんですが、世界遺産になる前の平成26(2014)年度は162件、4,784人でした。それが世界遺産になった2015年度は598件、1万7,797人に一気に急増しました。2016年度は熊本地震の影響で減少しましたが、2017年度には746件、2万5,101人と過去最高を記録しました。だいたい7分の1くらいは、私がご案内していると思います。ただ、その後は減少に転じ、2019年度は210件、4,608件。そして今年度はコロナ禍のために壊滅的な状況になっていまして、4~6月の3カ月間でたった2件、県庁の幹部と取材に来た地元放送局をお連れしただけです。

--大変厳しいですね。といって、打開策もなかなか考えにくい……。
齊藤:でも、ただ手をこまねいているわけにもいきませんから、7月から「定時ガイド」を始めました。実際には去年の10月にスタートし、今年5~6月は一時中断していたものなんですが、土日、祝日の午前11時と午後2時の2回、飛び込みで来られた観光客の方を待機していたガイドがご案内する新方式を導入しました。これまでは予約された旅行者しかご案内しなかったのですが、もう待っているだけではダメ、こちらから呼び込む。あらかじめ準備をして、受け皿をきちんとつくっておく。そんな取り組みを始めています。(※なお、定時ガイドはコロナ感染予防対策のため、2020年8月6日より一時中止している)
--自分の時間を潰して、いつ来るかわからない観光客を待つということですよね。齊藤さんの決意というか、覚悟のほどが伝わってきます。足下のコロナ対策も大変ですが、中長期的に考えた時、ジリ貧にならないように喚起策を講じる必要がありますね。
齊藤:産業遺産はどこも、3年か4年くらいで集客が落ち込むというジンクスがあるようです。岩見銀山も、富岡製糸場も同じように観光客が減っているそうです。海外、なかでもヨーロッパでは産業遺産というものがある程度、人々に認知されているのに対して、日本人は過去のことをあまり顧みない、古いものにはあまり関心がないように思われます。日本ではこのところ新しい世界遺産が次々と登録されているので、目移りしてしまう面もあるんでしょうね。産業遺産を専門とする学者、研究者もあまり多くない。だから私は、もう少し国が積極的に啓発していく必要があるのではないか、と考えています。そうしないと、貴重な産業遺産を維持・保全していくことは難しいと思います。重要なのは、古いものを大事にして、それを新しいものに変えていく創意工夫ではないでしょうか。
--お話を伺ってきて、齊藤さんの“三角西港愛”の強さ、深さがひしひしと伝わってきます。何が齊藤さんをそこまで突き動かしているのでしょうか?
齊藤:日本一とか、世界一とかって、なかなかなれないじゃないですか。私の郷里にある三角西港は国の重要文化財に指定され、ユネスコの世界遺産にも登録された。これはまさに私たちの誇りであり、スピリッツですよ。西港の先には海が開け、世界に通じている。三角西港は「(世界に向かって開かれた)東アジアの聖地」とも言われるそうです。多くの関係者のご尽力でここまで来た。それをさらにステップアップしていくのは、地元の人間の務めだと思っています。
世界遺産になったのはゴールなのではなく、出発点なんです。ここから始まるんです。子供たちも含めて、人々にはそんな想いを持って向き合ってほしい。次の世代に伝えていくことこそが、世界遺産の意義だと考えています。
--素晴らしい言葉ですね。次の世代に伝えていくために、ます何をしなければならないとお考えでしょうか?
齊藤:やらなければならないことは山のようにあります。例えば、石炭の積み出しの記録にしても、明治25、26年までのデータはありますが、それ以降の記録は見つかっていません。これも調べなければならない。運搬船も最初の秀吉丸、頼朝丸の後がわかっていない。三角周辺の貯炭場についても、私は法務局を回って100筆ほどの存在を確認しましたが、調査はまだ終わっていません。功績があった人物の調査もやらなければならない。そうやって資料をまとめ、発信していかないといけない。そうしないと、次に残していくことはできない。そう思っています。
--地元自治体や国にも、まだまだやるべきことがたくさんありそうですね。
齊藤:調査活動は本来は県や市がやるべきこと。愚痴っているだけでは仕方ないので、私がやっているわけです(笑)。国に対しても、言いたいことがあります。内閣府には世界遺産室という組織があるんですが、私に言わせると、あまり機能していない。専任の方が少なく、多くのスタッフは他の仕事を兼務しているため多忙で、特に今は政府はコロナ対策に追われている。今年は世界遺産登録から5周年の節目の年なんですが、それどころではないといった感じですね。
取り組みが足りない1つの例を挙げると、せっかく作った「明治日本の産業革命遺産」のロゴマークもまだあまり浸透していません。「登録できたらもう終わり」ではなく、もっと腰を入れた持続的な取り組みが必要なのではないでしょうか。一過性で終わらせてはなりません。
地元の行政に今一番やっていただきたいのは、きちんとした資料館を作って、オリジナルの資料を収集・保存すること。そこでは、子供たちが地域の歴史や当時の技術について学ぶことができる。そんな施設を是非ともつくってほしいと思っています。
--「明治日本の産業革命遺産」の全ての構成資産の保存や利活用に参考になる貴重なお話を伺うことができました。本日はどうも有難うございました。
(構成・文/高嶋健夫)
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