韮山反射炉とともに「刻」をきざむ~物産館&レストラン事業で"反射炉観光"の魅力度アップ~
株式会社蔵屋鳴沢 代表取締役社長
一般社団法人伊豆の国市観光協会会長
--御社の製品には、お茶にも、クラフトビールにも、韮山反射炉にちなんだユニークなブランド名が付けられていますね。とくに昭和29(1954)年から始められたお茶『茶の庵』は、『反射式遠赤外線火入茶』とうたっています。これはどういう製法なんですか?
稲村:『茶の庵』ブランドは、世界遺産登録が実現した2015年7月に物産館とレストランをリニューアルオープンした時から使い始めました。近年、お茶の需要は伸び悩んでいて、特に急須で入れるお茶はペット飲料に押されて減少しているんです。そのため、お茶屋としては、急須で入れる品質の高いお茶を生産していかないと生き残れない。そんな危機感から『反射式遠赤外線火入茶』という最高品質のお茶を開発しました。
『茶の庵』は最終仕上げ工程--業界では「火入れ」と呼ぶのですが--ここに遠赤外線を発する最新の高性能乾燥装置を導入して、丁寧に仕上げているのが特徴です。簡単に説明すると、乾燥機の上部にドーム型の反射板を設置し、下部のガスバーナーの火と合わせて二方向から乾燥させる仕組みです。これによって旨味をいっそう引き出し、香りの良い高品質のお茶をつくることができるようになりました。反射板を使うところにひっかけて、機械メーカーさんにも断ったうえで「反射式遠赤外線火入茶」と命名しました(笑)。
--昭和50(1975)年からは観光客向けの「茶摘み体験イベント」も開催しているそうですね。
稲村:よく「外から来た人は地元の人間が気づかないコトに魅力を感じる」などと言われますが、このイベントはまさにそれです。八十八夜が来て、丹精込めて育ててきた一番茶を手摘みするのは、お茶農家にとってはいわばお祭り、ハレの場なんです。そのときに着る木綿の着物はまさに晴れ着なんですね。そこで、これはまだ父の代の時の話なんですが、新茶の販促活動の一環として新しい着物をこしらえて、販売スタッフに着てもらおうとした。けれども、「忙しいのに、こんな重たくて暑いモノ、着たくない」と言って、着たがらなかったというんですよ(笑)。
ところが、この着物を見た若い観光客は、反対に「ぜひ着てみたい」と言われたんです。「じゃあ、いっそのこと貸し出そうか」という話になった(笑)。そんなことがきっかけなんです。最近ではインスタ映えする絶好のコスプレ体験イベントとして人気を集めていまして、去年は3カ月間で8000人以上ご参加いただきました。春だけでなく、秋摘みの頃にも開催しています。
--一方のクラフトビールは平成9(1997)年のスタート。これは造り酒屋の時代につながる、いわば“本業回帰”ということになりますね。
稲村:はい。ちょうど地ビール事業がブームになっていたこともありますが、もともとがここの湧き水を活かしてお酒をつくっていたわけですから、レストランを全面改装したタイミングに合わせて、韮山の湧水を使ったクラフトビールを『反射炉ビヤ』と銘打って売り出すことにしました。定番ビールには『太郎左衛門』とか『早雲』『頼朝』『政子』など、伊豆にゆかりのある偉人の名前を付けて販売しています。ちなみに、『早雲』はJR東日本が運行する全車両グリーン席の豪華列車「サフィール踊り子」でも車内販売されていて、ご好評をいただいております。他にも年間30種類程度の限定ビールも造っています。
■世界遺産を観光振興に活かすカギは「プラスアルファの魅力作り」
--稲村社長のお話をうかがっていると、世界遺産という大きな観光資源を地元の事業者が自社ビジネスに活かすにはどうすればいいか、たくさんのヒントが溢れていると感じました。ヘリテージ観光のモデルケースと言ってもいい、と思います。
稲村:有難うございます。私たちは自分たちが手がけている事業をしっかり育てつつ、韮山反射炉の隣にあるという立地を活かして、反射炉とともに歩んでいこうと考えています。ただし、「反射炉があるからやっていける」というのではなく、私たち自身の魅力を高め、「蔵屋鳴沢に行く」こと自体を目的に来られるお客様を増やしていきたい。そうなることで、反射炉も、当社もともに発展して行く。そんな姿を目指しています。
--「明治日本の産業革命遺産」には23の構成資産がありますが、自治体や観光事業者の中には、この貴重な遺産群をどのように地域振興や観光業の発展に活かしていくか、いろいろと悩まれている方も多いと思われます。最後に、長年ご自身も試行錯誤でご苦労をされてきた稲村社長から、何かアドバイスをいただけますでしょうか。
稲村:今の観光客は「その土地に行かないと味わえない何か」を求めているように感じます。それをいかにして見いだし、お客様が喜んでくれるように表現するか。それに尽きるように思います。まさに茶摘み体験イベントのように、私たちが当たり前と思っていることが、思いがけない観光資源に生まれ変わることもあるわけですから。
--本日は新茶の茶摘み前のお忙しいところ、貴重なお時間をいただき、どうも有難うございました。
(構成・文/高嶋健夫、なお本取材は4月中旬に電話インタビューで実施)
茶摘み体験イベント、クラフトビール『反射炉ビヤ』(写真提供:蔵屋鳴沢)
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前 内閣官房 内閣参事官
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